2024年08月02日 1832号
【24年版防衛白書に見る自衛隊の変貌/安倍、菅、岸田政権が踏み越えた憲法の制約/グローバル軍事同盟めざす政府】
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2024年版防衛白書が公表された(7/12)。自衛隊発足70年となる今年、巻頭でその「歩み」を振り返っている。あらためて言えば、ここ10年の変貌はすさまじい。自衛隊は、海外経済権益を守るための侵略軍としての「実力」を急速に整えている。それだけではない。軍隊を必要とする戦争国家は、経済も、社会もそれに見合う構造へと造り変えてしまうのだ。
仮想敵国の決め方
軍隊の論理は単純だ。誰と戦うか。どう勝つか。その体制をどう整えるか。
では「戦う相手」―仮想敵国はどう変わってきたか。
自衛隊発足(1954年)時、仮想敵国はソビエト社会主義共和国連邦だった。ソ連崩壊(91年)後は「対テロ戦争」を掲げ、世界中に「敵」をつくった。「国連PKO」を利用し海外派兵への扉を開いた自衛隊は、湾岸戦争やアフガニスン、イラクの戦争に参戦した。
米ソ冷戦後のこの時期ほど軍隊の存在する意味がむき出しになったことはない。米国の石油権益、ドル支配からの離脱をはかったイラクのフセイン政権が葬られた。小泉政権は自衛隊の海外派兵=侵略軍化にむけ、戦場≠ノ送った。
そして現在の「仮想敵国」は中国である。米中経済戦争がトランプ大統領就任(16年)後表面化し、軍事的脅威を煽(あお)り、経済制裁を正当化した。中国のGDP(国内総生産)は米国に迫り、米国資本の独擅場であったITなど先端技術の分野(例えば通信技術5G)では先行される恐れがあったからだ。
中国経済との関係性は米国資本と日本資本とでは異なるが、米軍との一体化を優先する政府の判断は、米国の敵対国を日本の仮想敵国とした。つまり、誰と戦うかは政治の都合により設定されてきたのである。
侵略軍に必要なもの
戦い方はどう変わってきたか。ソ連邦が仮想敵国の時代は北海道に大戦車部隊を配備し、「迎え撃つ」構えだった。今は、中国と戦うために九州・沖縄を中心にミサイル部隊の配備に全力をあげている。敵基地攻撃能力の保持を「正当化」した自衛隊は、侵略兵器を続々とそろえはじめた。軍事的論理では先制攻撃ありきの兵器だ。ミサイルの長射程化の他、超高速化、無人攻撃機、ステルス戦闘機。「敵国」に侵入、攻撃する戦術を練り上げている。
独自の戦闘能力を高めることと共に力を注いでいるのが共同軍事演習の強化、拡大だ。日米間に加え、多くの国の軍隊との演習が頻繁に行われている。まさに「集団的自衛権行使」の演習なのである。
24版防衛白書(資料編)には20年以降実施した軍事演習のリストが上がっている。23年度に限っても米軍との共同演習は82件、米軍を含む多国軍とも54件、この他、欧州、東南アジアなどの国軍とも演習を行なっている。日米軍事同盟は「インド太平洋」を越えた「グローバル・パートナー」(岸田・バイデン共同声明24年4月)となっているのだ。
今年度創設された「統合作戦司令部」も自衛隊変貌の期を画す出来事だ。全軍の作戦指揮を執る司令官の役割を統合幕僚監部(責任者は統合幕僚長)から切り分けた。米国のインド太平洋軍司令官に対応するポストだと説明されるが、それだけではない。首相(最高指揮官)の補佐役である統合幕僚長とは別に、軍隊は政治判断を待つことなく軍事命令を発する責任者を必要としていたのだ。
自衛隊は中国を仮想敵国とし、米軍を参考に侵略軍の組織編成を整えている。軍の論理は政治のコントロールを脱する可能性を常に秘めている。
社会・経済の軍事化
「専守防衛」の看板をおろし、「集団的自衛権行使」に踏み込んだ安倍政権、「敵基地攻撃能力」の保持を公然化した菅政権。岸田政権は軍拡予算を組み、侵略軍化を加速したのだ。
軍隊を抱える経済、社会はどんな姿になっていくのか。まず、軍事予算の増大が財政構造を変えてしまう。岸田政権は軍事費「GDP1%」の上限枠を踏み越え、23年からの5年間で「2%」に見合う43・5兆円へと倍増させた。実際はさらに高額で、ローン払い16・5兆円を含め、59・5兆円と言うべきだ。続く28年からの整備計画はさらに上回っていくに違いない。この軍事費を捻出するために、社会保障費などの支出を抑え、増税案まで浮上している。
軍需産業の育成も経済に少なからず影響を与える。「防衛生産基盤の強化」及び「研究開発」にかける予算は、前整備計画(19〜23年)の4・5倍。防衛白書第W部第1章「いわば防衛力そのものとしての防衛生産・技術基盤」と表題を掲げるように、自国に軍需産業がなければ戦争継続はできない。
すでに岸田政権は「防衛生産基盤強化法」(23年)により、国による軍需企業支援をうたった。海外の軍需企業と共同開発を行う上で必要だとして「経済秘密保護法」を制定(今年5月)、市場を拡大する「防衛装備移転三原則の運用指針」を変えた(23年12月)。「市場の創出」(=戦争)まで請け負うということだ。
「経済秘密保護法」は民間人の身辺調査を合法化する点でも社会を戦争国家に「改造」する手だての一つにもなっている。さらに岸田政権は地方自治法を改悪し、政府の指揮権を明文化した。政府が自治体を使って戦争動員を行えるということだ。総動員体制は家族を戦場に送り、その死さえも受け入れることを強要する社会なのである。
一流の戦争国家≠ヨ
防衛白書は23年度の活動報告である。その後、何が起こっているのか。
NATO(北大西洋条約機構)首脳会議(7/11)のパートナー・セッションに出席した岸田文雄首相は、NATOとインド太平洋を舞台とした軍事同盟との一体化をアピールすることに余念がなかった。
その直後に日本政府が開催したのが南太平洋の島々14か国などを集めた太平洋・島サミット(7/16〜7/18)。岸田は「自由で開かれたインド・太平洋」を定着させようと必死だった。中国の影響力に対抗する狙いは明らかだ。大西洋とインド洋・太平洋をつなげば地球を1周する親米軍事同盟が出来上がる。岸田はそのフィクサーを買って出ているのだ。政治が一流の戦争国家を目指して突っ走っている。
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グローバル資本主義が続く限り、市場争いは避けられず、経済的な搾取は格差を拡げていく。軍隊はそんな不満を抑え込んでいくために必要とされる。時には戦争そのものに利益を見出す。だが、少なくとも戦う相手をつくらない限り、軍隊の出番はない。それは政治の責任であり、政治を動かすのは市民の力である。
ウクライナ、パレスチナでの戦争をやめろ。日本政府に軍拡・軍事同盟ではなく、外交による平和解決に専念せよと押し付けよう。諦めることなく闘い続ける沖縄の人びと、世界の平和を求める人びとと連帯しよう。
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