2024年08月09日 1833号

【国際司法裁が勧告的意見/イスラエルによる占領は違法/パレスチナの自決権を侵害】

 国際司法裁判所は7月19日、イスラエルによるパレスチナ占領は国際法違反であるとして、同政府は「速やかな撤退を行う義務を負う」とする勧告的意見を出した。イスラエルの行為を断罪すると同時に、それを許してきた国際社会の責任を問う画期的な判断だ。

国際法違反と判断

 国際司法裁判所(ICJ)は、国際法に基づく裁判で国家間の紛争を平和的に解決するために設立された国連の司法機関である。国家間の法的紛争を裁判するほか、国際法上の論争点に対して勧告的意見を出すことを任務とする。

 今回の勧告的意見は、2022年12月の国連総会で採択された決議を受けて出されたものだ。イスラエルによるパレスチナ占領政策にはどのような法的問題があるか、今年2月から審理を続けていた。

 7月19日に公表された勧告的意見の骨子は別表のとおり。イスラエルによるパレスチナ占領及び同地への入植活動は「武力による領土取得の禁止の原則に違反しており、パレスチナ人の民族自決権行使の障害となっている」と指摘した。

 また、イスラエルが占領地のパレスチナ人に対して様々な制限を課していることは「人種、宗教、民族的出自などに基づく包括的な差別」であり、国際人権規約や人種差別撤廃条約に違反していると認定。水を含む天然資源の搾取も違法であり、パレスチナ人の自己決定権を侵害しているとの判断を示した。

 そのうえでICJは、イスラエル政府には▽速やかな占領の終結▽入植活動の即時停止と全入植者の撤退▽占領で生じた損害の補償―を行う義務があると断じた。法的拘束力はないものの、イスラエルの占領政策を全面的に断罪する画期的な司法判断だ。

 パレスチナ解放機構(PLO)執行委員会のフセイン・アル・シェイク事務局長は「パレスチナの人びとの権利と、パレスチナ人の自己決定権にとって、歴史的な勝利だ」と評価。「国際社会はICJの意見を尊重し、パレスチナ自治区の占領をイスラエルにやめさせなくてはならない」と呼びかけた。


国際社会の責任問う

 今回の勧告的意見で注目されるのは、すべての国に対し「占領の維持につながる援助や協力を行わない義務がある」と述べていることだ。国連総会や安全保障理事会に対しても「違法な占領を可能な限り速やかに終わらせる的確な方法とさらなる措置を検討するべきだ」と促している。

 イスラエルの擁護者として振る舞ってきた米国や欧州諸国、それに追随してきた国連の責任が問われているのだ。日本も例外ではない。武器取引反対ネットワークの杉原浩司代表は「日本政府はいまだにイスラエル製の攻撃型ドローンの輸入をやめていない。イスラエル軍事企業を支援し虐殺に加担するなどあり得ない」と批判した。

 自国の政府や企業に対し、イスラエルの犯罪行為への加担をやめさせる運動にとって、今回のICJ勧告は大きな力となる。

激化する入植活動

 世界がガザの惨状に目を奪われる中、ヨルダン川西岸地区では暴力的な入植活動がエスカレートしている。人権団体ベツェレムによると、今年4月までに入植者の襲撃などでパレスチナ人の157家族、1056人が家を追われ、16集落が消滅したという。入植者の暴力によって死亡した者は554人に上る。

 7月16日付の読売新聞が具体例を報じている。「旧約聖書」で知られるエリコから北10キロのラスアイン・アウジャ集落。この集落には約150家族、400人ほどのパレスチナ人が住み、遊牧生活を営んでいた。この地には湧水が豊富に出る泉があり、家畜飼育のほかにナツメヤシなどの栽培に使われてきた。

 ところが、武装したユダヤ人入植者がこの泉に居座るようになった。彼らから嫌がらせや襲撃を受けた集落の住民は、生活に不可欠な泉に行くことも阻まれるようになった。入植者の狙いが住民の追い出しにあることは明らかだ。

 砂漠と半乾燥地帯から成るパレスチナの地の中で、ヨルダン川に接する西岸地区は水資源が比較的豊富な地域である。イスラエルがこの地を戦争で奪い、占領し続けている大きな理由だ。イスラエルは西岸地区の水資源の88%を掌握し、パレスチナ側への供給を制限している。水を戦略的武器にして、パレスチナ人の自立を阻んでいるのだ。

 今回のICJ勧告が、水を含む天然資源の搾取に触れ、パレスチナ人の自己決定権を侵害していると指摘したことの意味が分かっていただけたであろうか。

全土が占領支配

 さて、読者の皆さんに注意してほしいことがある。

 一般的にパレスチナの被占領地とは、イスラエルが1967年の戦争で占領し、今日まで支配を続けている地域のことを指す(エルサレム市の東側を含む西岸地区とガザ地区)。これを額面通りに受けとめると歴史認識を誤ってしまう。

 現在イスラエル領とされている土地はすべて、シオニスト勢力が先住民であるパレスチナ人を武力で追い出して奪ったものである。パレスチナ全土が植民地化されたのだ。

 イスラエルの本音は「ユダヤ人だけの国」をつくることであり、1948年の建国はパレスチナ人の民族浄化と不可分であった。この民族浄化がガザでの破壊や殺戮、西岸における入植地の拡大といった形態で今も続いているのである。

 イスラエル国会(クネセト)は7月21日までに、いかなる形でもパレスチナ国家の樹立を拒否するとの決議案を賛成多数で可決した。国際法無視のイスラエルに圧力を加え、ガザ侵攻及び占領政策をやめさせる取り組みをさらに広げていかねばならない。   (M)

ICJ勧告的意見の骨子

■イスラエルによるパレスチナ占領は国際法違反

▽イスラエルは…
 ・違法な占領を可能な限り速やかに終わらせる義務を負う
 ・新たな入植活動の即時停止と全入植者の撤退の義務を負う
 ・占領で生じた損害の賠償義務を負う

▽すべての国は…
 ・違法な占領がもたらす状況を合法と認めず、占領維持への援助を与えない義務を負う

▽国連、国際機関は…
 ・違法な占領がもたらす状況を合法と認めない義務を負う
 ・国連総会と安保理は、違法な占領を可能な限り速やかに終わらせる的確な行動とさらなる措置を検討すべき
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