2024年08月30日 1835号

【パレスチ統一政府へ北京宣言/分断克服しジェノサイドを止める一歩】

 イスラエルはガザ攻撃を続けている。死者は4万人を越えた。停戦協議は8月15日再開したもののイスラエルはポーズだけで、合意する意思はうかがえない。だが、イスラエル対ハマス間の戦闘として描かれてきたガザ戦争は構図を変えつつある。パレスチナはハマスを含む14の政治勢力がイスラエルの侵略、占領に統一して闘う方針を改めて確認したからだ。

即時停戦せよ

 イスラエルとハマスの停戦協議は7月初め「ほぼ合意」と言われながら、イスラエルが新たな条件(荷物検査の徹底、軍駐留など)を持ち出し、合意を引き延ばした。その後、ハマスの交渉責任者を爆殺(7/31)。しかも、ハマスを支援するイラン国内で実行した。イランの報復を誘い、相手側の「停戦拒否」を狙ったのは明らかだ。

 ガザで起きていることは国際法違反のジェノサイド攻撃であり、本来「協議」するまでもなく、即刻やめなければならない犯罪行為なのだ。

 停戦とともにハマスが拘束した人質・捕虜とイスラエルが拘束しているパレスチナ人の解放を行う。その点では停戦協議当事者はイスラエルとハマスではあるが、これ以上犠牲者を出さないために停戦要求する当事者はガザの人びとであり、ヨルダン川西岸地区・エルサレムの人びとなのだ。ガザ攻撃と並行して西岸での暴力もエスカレートしていることを忘れてはならない。

 イスラエルはガザ地区を支配するハマスをテロ組織として攻撃。西岸を支配するパレスチナ自治政府の主流派ファタハとの対立・分断をはかってきた。だが、パレスチナ側では改めてこの分断を乗り越える努力がなされている。自治政府アッバス大統領が、2007年の自治政府分裂以来初めてガザを訪問する。「敵に勝つ最短の道は国家の団結だ」(8/16日経新聞)。

 この動きを促したのは、ファタハ、ハマス、パレスチナ人民闘争戦線(PPSF)などパレスチナの14の政治勢力が7月22日に署名した「北京宣言」であることは間違いない。

統一プロセス確認

 中国政府はパレスチナ諸政治勢力を北京に招き、統一への協議の場を提供した。2日間の討議を経て、「分断終結とパレスチナ民族統一強化をめざす北京宣言」に署名した(概要別掲―「アル・クッズ・アル・アラビ」紙から訳出)。

 パレスチナはガザ地区と西岸地区・エルサレムに分断されている。「分断の終結」とは政治的分断と共に地理的分断の終結を意味しているのは言うまでもない。宣言はパレスチナ国家樹立に向けた統一政府再建の手順を確認した。

 まず、統一された暫定指導部による暫定民族和解政府を形成。この暫定政府の下で政府機関の統一と総選挙を実施し、新たな民族評議会を選出する。このプロセスは、11年にカイロで調印された「民族和解合意」や22年の「アルジェ宣言」で確認されているものだ。

 今回、これを確実に進めるために、各勢力の事務総長会議を開き、以後のタイムテーブルをつくる。これには、中国の他、エジプト、アルジェリア、ロシアが加わった緊急作業チームがあたることが検討されている。

 ファタハとハマスの和解、統一政府の合意は過去に何度もある。過去の合意がなぜ実現しなかったのか。イスラエルがその都度つぶしにかかったからだ。

イスラエルの妨害

 直近の「アルジェ宣言」は、今回と同様に14の政治勢力が合意。PLO(パレスチナ解放機構)をパレスチナ人の唯一の代表機関として確認し、すべての勢力が参加した民族評議会、大統領の選挙を1年以内に実施するとしていた。PLOと対立していたハマスやイスラム聖戦運動などを含む合意が成立した意味は大きい。

 イスラエルはこれを阻止しようと、エルサレムでの投票を認めなかった。エルサレムは、パレスチナ人が大半を占める東エルサレム(旧市街地)も含めイスラエルの占領下にある。パレスチナは、ガザ、西岸とともにエルサレムの統一、一体化が不可欠であることから、選挙実施を見送った。合意した1年の期限が切れる10月12日を前に、ガザでの戦闘(10/7)が始まったのだ。

 イスラエルはこれまで何度もガザを攻撃している。例えば14年。ファタハとハマスの協議により暫定統一政府が発足している。イスラエルのネタニヤフ首相(当時も)は「アッバス議長(自治政府大統領)はテロにイエスと言い、和平にノーと言った」と非難し、統一政府発足1か月後に攻撃を開始、50日間で約1400人を殺害した。繰り返されるガザ攻撃にはそんな背景があった。「ハマースとファタハの大連立政権が成立するたびに軍事攻撃でつぶされてきた」(「現代思想」2月号、早尾貴紀東京経済大学教授)のだ。

   *  *  *

 北京宣言が発表されるや、イスラエルのカッツ外務大臣は「アッバスはテロを拒否する代わりにハマスの殺人犯たちを受け入れた」と10年前のネタニヤフと同じセリフで非難。「(パレスチナ統一政府は)そんなことは起こらない。ハマスの支配はうち砕かれ、アッバスは遠くからガザをながめることになる」とし、分断策は有効だと語っている。

 パレスチナの統一はイスラエルにとっては脅威なのだ。これまでの宣言はアラブ諸国がサポートしてきたが、今回は中国、ロシアが加わった。米中の覇権争いが中東地域でも目に見える形になってきた。イスラエル、米政府への牽制(けんせい)になることは間違いない。だが、その成果はパレスチナ解放へ前進するものでなければならない。イスラエルや米政府の分断策を排するとともに、中露の政治的思惑に左右されてはならない。

 今回合意した政治勢力がパレスチナ人民を代表する正当な統一政府を樹立できるかは、国際的な連帯行動の強化にかかっている。



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