2024年08月30日 1835号

【読書室/検証 大阪維新の会 「財政ポピュリズム」の正体/吉弘憲介著 ちくま新書 880円(税込968円)/大阪・関西万博「失敗」の本質/松本創編著 ちくま新書 900円(税込990円)/維新「身を切る改革」の矛盾】

 日本維新の会が落ち目である。「野党第1党を狙う」と公言していた頃が嘘のように、政党支持率は立憲民主党に逆転され、衆院補選などの結果も振るわない。地盤とする関西でも勢いに陰りが見られる。

 維新失速の大きな原因が、大阪・関西万博の大迷走にあることは明らかだ。実は、看板政策に掲げる巨大事業について、維新は住民の十分な支持を得られないでいる。カジノIRがそうだし、いわゆる大阪都構想も住民投票で二度負けた。一方、地元大阪の選挙では圧倒的な強さを誇る。

 この矛盾の解明を、吉弘憲介著『検証 大阪維新の会』(ちくま新書)は、財政分析の手法で試みている。維新が大阪市などで実際に行ってきた財政運営を、著者は「財政ポピュリズム」と規定する。

最大の武器が弱点に

 維新は新自由主義政策の徹底を掲げる政党だが、実際の財政運営は「小さな政府」一辺倒ではない。人件費の大幅削減や公共サービスを縮小を行う一方、私立高校の授業料無償化の所得制限撤廃など財政支出の膨張をともなう政策も目玉商品として実行している。

 著者は「(1)既存の資源配分を既得権益として解体し、(2)その資源をできるだけ広く配分し直す、その結果、(3)それまで財政を通じた受益を感じづらかったマジョリティからの支持が強化される」というメカニズムが働いていると言う。

 こうした財政ポピュリズムは自己利益の最大化を望む人びとにとっては好ましいものかもしれない。だがそれは財政の本質的な役割、すなわち「個人の利益を乗り越えて、社会全体の価値を実現しようとする行為」を否定するものだと著者は強調する。

 貧困層や困難を抱える人に対する公共支出を「受益者が一部に偏っている」と攻撃して取り上げることは、社会的弱者の切り捨てにほかならない。維新が行ってきた生活保護や社会福祉費の削減がまさにそうだ。

 そして、財政ポピュリズムで支持されてきたがゆえに、維新は巨大事業推進への合意取得に苦戦している。万博・カジノにせよ、都構想にせよ、個人が直接的なメリットを感じにくい事業だからである。「最大の武器」は「最大の弱点」でもあるということだ。

大阪特有ではない

 そこで維新は万博の「経済波及効果」をさかんにPRしているが、最大3兆円という試算はいかにも嘘臭い。この一件を含め、万博が抱える様々な問題点は、松本創(はじむ)編著『大阪・関西万博「失敗」の本質』(ちくま新書)が詳しい。

 編者の松本は次のような未来予測で本書を締めくくっている。「過去の成功体験にとらわれた一部の人たちが『成長の起爆剤』だと喧伝し、不都合に目をつむって万博を強行する。それでも大半が無関心のまま、誰も止めることができない。そして、維新首長の下で府市が一体化し、政治と行政の間の線引きも失われた今の状況では、おそらく誰の責任も問われない。大阪が置かれたその状況こそ、大阪・関西万博『失敗』の本質であろう」

 そうなってはならないし、「身を切る改革」幻想の崩壊とともに維新支配も終わる可能性は高い。だが、別の勢力が台頭して「既得権攻撃」で人気を集める政治をくり返すのであれば、社会全体の劣化が進み、生活は苦しくなる一方だ。

 吉弘が指摘するように、財政ポピュリズムは大阪特有の現象ではない。それは「財政という集団の経済行為から人びとの関心や意思決定の機会が失われる中で起こった、極めて今日的な現象」といえる。

 政治が信用できなくなったからといって、個人に財政を頭割りで配り直しても、社会が抱える問題の根本解決にはつながらない。民主主義の徹底によって、持続可能な「共同の利益」を実現するための政治が求められているのだ。  (O)

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