2024年08月30日 1835号

【コラム 原発のない地球へ/いま時代を変える(4)/原発は地震に耐えられるか】

 各地で行われている原発運転差し止め仮処分や訴訟において、主要な争点の1つが原発は地震に耐えられるかということだ。「原子炉建屋の直下に活断層があれば原発を運転することができない」とされるのも、地震が起こった時に断層が左右や上下にずれたりして大事故になりかねないからだ。

 各原発には「基準地震動」が設定されている。「施設を使用している間に極めてまれではあるが発生する可能性があり、施設に大きな影響を与えるおそれがあると想定することが適切な地震動」のことだが、地震学では素人の裁判官がそれをどう判断するのか。

 運転差し止め事件を担当することになった樋口英明元判事は次のように考えた。原発には高度の安全性が要求される→地震大国日本においては高度の耐震性が要求される→日本の原発の耐震性は極めて低い→よって原発の運転は許されない、と。

 「原発の耐震性は極めて低い」と考えたのはなぜか。福井県大飯(おおい)原発の基準地震動は建設当時405ガル(重力加速度を示す単位)、判決当時でも700ガルだった。建設当時は「400ガルが震度7に相当する」と考えられていた。だが、その後実際に起こった最大震度7の新潟県中越地震(2004年)では2515ガル、東北地方太平洋沖地震(2011年)では2933ガルが記録され、震度6弱以上の地震では軒並み1000ガル超の地震動が観測されている。大飯原発の場合、1260ガルを超える地震には耐えられないことは関西電力も認めていた。しかし、関電は裁判で「大飯原発の敷地には700ガルを超える地震は来ない」と主張していた。樋口元判事は「この電力会社の主張を信用するか否かが原発差し止め裁判の本質」と述べる。

 愛媛県伊方原発はM(マグニチュード)9クラスと予想される南海トラフ地震の震源域に入ると共に、中央構造線活断層帯の南側に位置する。愛媛県の報告では、伊方町の一部は最大震度7と想定されている。ところが伊方原発3号機運転差し止め仮処分裁判(広島地裁)で四国電力は「M9クラスの地震が発生した場合でも、最大地震動は概ね180ガル程度」と主張した。M9の東日本大震災では最大震度が7で最大地震動は2933ガルを記録したことや、直近の20年間に180ガルを超える地震動を記録した地震が180回を超えていることなどを考慮すれば、「伊方原発敷地には180ガル以上の地震は来ない」という主張に何の合理性もないのは明らかだ。

 ところが、2023年3月24日の広島高裁決定は、「電力会社側に立証責任を負わせる伊方原発最高裁判例の判断枠組みは採らない」として、広島地裁と同様に住民側の申し立てを認めなかった。これは、裁判官が自分の頭で考えることを放棄したものだ。裁判官は、自らの判断で多大な犠牲が起きることの責任をもっと自覚する必要がある。     (U)

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