2024年08月30日 1835号

【長崎「原爆の日」式典を米欧欠席/被爆者無視してイスラエル擁護/虐殺をかばい続ける米欧日】

 長崎「原爆の日」に行われた平和式典に、米欧6か国と欧州連合(EU)の駐日大使が参加しなかった。パレスチナ自治区ガザへの侵攻を続けるイスラエルを主催者の長崎市が招待しなかったことが理由である。欺瞞的かつ身勝手な二重基準というほかない。

イスラエル非招待に反発

 長崎市では原爆投下の8月9日に平和祈念式典を毎年行っている。原爆を落とした米国の駐日大使も2012年から参加してきた。ところが今回、エマニュエル大使は欠席した(在福岡首席領事が参加)。

 米国と歩調を合わせるように、英国、ドイツ、フランス、イタリア、カナダの5か国とEUも大使級の参列を取りやめた。イスラエルが招待されなかったことを受けてのG7(日本を除く)集団欠席である。

 連中の言い分は「イスラエルをロシアと同列に置くことは誤解を招く」。ロシアはウクライナ侵攻を理由に3年連続で招待されていない。そのロシアと同じ扱いはイスラエルを侵略国認定することになる、と言いたいのだろう。

 英国のロングボトム駐日大使は「ロシアはウクライナという主権国家に侵略したが、イスラエルは自衛権を行使している」と違いを強調する。在日フランス大使館も「主権国家に対するロシアの侵略戦争と比較することはできない」と述べた。本当にそうか。

 イスラエルは今回のガザ侵攻を「イスラム組織ハマスのテロ行為に対する自衛行動」だと主張し、欧米諸国や日本の政府もこれを支持してきた。しかしガザは1967年の第3次中東戦争以来、イスラエルの占領下にある地域だ。国際法上、占領国であるイスラエルはガザに対して「自衛権」を主張できない。

 そもそもイスラエルの行為は「自衛」の範囲をはるかに超えている。昨年10月からのガザ攻撃で殺されたパレスチナ人は4万人を超える。その7割以上が女性や子どもである。必要性や均衡性という自衛権発動の要件を満たしていないことは明らかだ。

「ロシアとは別」か

 国際法を踏みにじっているという点でもロシアとイスラエルは共通点が多い。まずロシアだが、ウクライナへの侵攻は国際法違反であり、非軍事施設の攻撃や民間人の殺害といった戦争犯罪も多数引き起こしている。国際刑事裁判所(ICC)はプーチン大統領らに戦争犯罪容疑で逮捕状を出している。

 イスラエルも国際法違反のオンパレードだ。国際司法裁判所(ICJ)は1月、イスラエルに対しジェノサイドを防ぐ全ての措置を取るよう求める暫定措置命令を出した。7月には同国のパレスチナ占領政策は国際法に違反しているという勧告的意見を出した。

 イスラエルのネタニヤフ首相も戦争犯罪容疑で訴追される可能性がある。逮捕状を請求したICCのカーン主任検察官は、戦争の手段として民間人を飢餓に陥らせたり、殺人、民間人に対する意図的な攻撃指示、絶滅などの犯罪を犯した疑いがあると述べた。

 病院や学校を意図的に攻撃する悪質さにおいては、ロシアの上を行くかもしれない。市民を無差別に殺りくする核兵器の非人道性を訴えてきた被爆者が、イスラエルやその擁護者である欧米の大国を厳しく批判するのは当然だ。

 長崎原爆被災者協議会の田中重光会長は「欧州やG7の政治家は何を見ているのかと言いたい」と憤る。「イスラエルは、パレスチナの学校や病院などを攻撃しており、ジェノサイド(集団殺害)だ。それを支持するのはおかしい」

明らかに二重基準

 今回の式典ボイコットは、民主主義、人権、法の支配を「普遍的価値観」に掲げるG7の欺瞞性、ダブルスタンダード(二重基準)を浮かび上がらせた。

 イスラエルは入植者であるユダヤ人が先住民であるパレスチナ人を追放し、土地や資源を奪って建国した入植者植民地主義国家だ。米国などから見れば、根底的な価値観と利害を同じくする国であり、中東支配の前哨基地としての役割を期待されている。

 そして近年は、「対テロ戦争」の最先端国としての地位を確立した。パレスチナ占領や周辺アラブ諸国との戦争で開発したハイテク兵器や監視技術は、それを欲する国にとってはかけがえのないものだ。

 こうして「戦略的資産」となったイスラエルを欧米の大国は一貫して擁護してきた。イスラエルが国際法違反の暴力をくり返しても平気なのはこのためだ。たとえば、米国は国連安全保障理事会おける拒否権行使を昨年末までに計89回行ってきたが、その半分以上がイスラエル非難の性格を持つ決議案に対して行われたものである。

 日本も第二次安倍政権の登場以降、イスラエル支持の姿勢を鮮明にしている。今回の一件でも外務省は長崎市に対し水面下で再考を促していた。「式典に参加しない」と脅す国を説得するのでなく、市側に圧力をかけていたのだ。岸田文雄首相が強調する「核兵器のない世界の実現」が口先だけの言葉でしかないことがよくわかる。

パレスチナの訴え

 ちなみに広島の平和式典には欧米6か国やEUの大使級が参加した。イスラエルを招待し、パレスチナを招待しなかったからであろう(長崎は招待。駐日パレスチナ常駐総代表部の一等参事官が参列した)。

 パレスチナのシアム駐日大使は市民有志が開いた集会(8/6)にオンライン参加し、次のように呼びかけた。「今この時も、がれきの下で女性や子ども、お年寄りが生き延びようとしている。あなたたちの声がライフラインです。ともに立ち上がり、抑圧を終わらせよう」。これこそ被爆地からの発信にふさわしいメッセージといえよう。(M)



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