2024年09月06日 1836号

【行き詰まった「異次元の金融緩和」/利上げ・国債費増による市民への犠牲転嫁許すな/消費税減税・賃上げで生活守れ】

 円安は、社会にどのような影響を与えているのだろうか。マスコミは、円の弱さを海外旅行で実感した例や来日した外国人のエピソードは報じるものの、日本経済と円安の関係を掘り下げることはない。

円安で深刻な物価高

 ある試算によれば、円安が10%進む場合、製造業・大企業の収益は8%ほど増え、非製造業・中小企業は仕入れに占める輸入比率が輸出比率より大きいので2%ほど収益が減る、という(日本総研「日本経済展望7月」)。製造業・大企業で働く労働者は全体の1割に満たず、非製造業・中小企業で働く労働者が6割を超えることを考えれば、賃上げは大企業に限られてしまい、円安が続くと賃下げの圧力が強まるだろう。

 また、円安は深刻な物価高を引き起こしている。生活は輸入品や輸入原材料による製品に囲まれているため、その価格が上がり物価を押し上げるためだ。


金利引き上げと株大暴落

 岸田自公政権は、円安による物価高への市民の憤りと異常な国債累積の前に、「対策」を打たざるをえなくなった。「助け舟」を出したのが日本銀行である。7月31日に政策金利の引き上げ(0・1%から0・25%へ)と国債購入の減額計画(月6兆円程度を月3兆円程度に)を発表したのだ。

 この日銀の決定を岸田文雄首相は「政府と日銀はデフレ型経済から新しい成長型経済への30年ぶりの移行を成し遂げるという共通の認識に立って、密接に連携している。本日の決定もこうした認識に沿って行われた」(7/31朝日デジタル)と歓迎した。

 ところが、この決定後に株の大暴落(金額で過去最大、下落率では史上二番目)が起きた。「多少は下落するだろうとみていたが、あの下落幅は予想しようがない」(8/7日経)と日銀関係者が言うほどだった。

 その後の株は「回復基調」と言われるが、暴落の要因とされる日銀の金利引き上げによる円高ドル安の進行、米国の景気低迷、中東情勢の緊迫化、投機筋の仕掛けなどを見ると、事態の推移はなお不透明だ。

金融緩和で儲けた大企業

 なかでも瞬時に大量の資金を動かす投機筋の仕掛けは、株式市場を実体経済が反映しないものに変え、カジノ(賭場)にしてしまう。

 現在の株式市場の問題点の一つは、日銀と年金基金から公的資金の投入によって株高が作り出されていることだ。とりわけ、日銀は10年以上も続けてきた「異次元の金融緩和」(アベノミクス)によって株保有を急増させている。

 「異次元の金融緩和」とは、日銀が市場から国債を大量に買い入れる→そのお金が市場へ大量に供給される→これによって投資や消費を増やして経済全体の活性化を狙うものだ。さらに、上場投資信託(ETF)の購入を急増させ、銀行が貸出しを増やすよう政策金利をマイナスにする前例のない策も行われた。

 それは意図的にインフレ状態を作り出し、円安と株高によって大企業の儲けを増やそうとする政策である。


"日銀は政府の子会社"?

 ここで問題になるのは、日銀の本来の役割は何か、その実態はどんなものか、ということだ。

 日銀は、政府から独立して金融政策を決定・実行することをうたい、「物価の安定を図ることを通じて国民経済を健全に発展」(日銀法第2条)させることを最大の目的に掲げる。

 政府から独立した組織とはいうものの、政府からの独立性が保証されているわけではない。日銀が行う通貨と金融の調節も経済政策の一環として、「政府の経済政策の基本方針と整合的なものとなるよう、常に政府と連絡を密にし、十分な意思疎通を図らなければならない」(第4条)と定められているのだ。

 安倍晋三元首相は「日銀は政府の子会社だ」と述べ、政府と日銀の関係をあからさまに表現した。独立性など無視している。この考えの下で安倍政権は、借金(国債発行)のリスクなどおかまいなしに経済対策を行ってきた。日銀の国債引き受けが原則禁止(財政法第5条)にもかかわらず、日銀に市場から国債の大量購入をさせて事実上の引き受けを行わせ、財政の支えにしていた。

軍事費拡大に日銀が関与

 岸田自公政権も安倍路線を引き継ぎ、「共通の認識で密接に連携」することを日銀に求めてきた。一例として日銀の国庫納付金を軍事費財源に使う狙いがある。

 軍事費増額の財源を裏付ける防衛財源確保法が昨年6月に成立した。5年間の軍事費を43兆円にするため14・6兆円程度の追加が必要とされ、税外収入で4・6兆〜5兆円強、決算剰余金の活用で3・5兆円程度、歳出改革で3兆円強を見込む。日銀の2022年度決算で1兆9831億円の国庫納付金が判明した。22年12月の一般予算案閣議決定時には9464億円だった国庫納付金が2か月後に1兆367億円も上乗せされた。これは、そのまま決算余剰金を増やすことになる。

 「今回の日銀の決算には、防衛財源を決算余剰金からひねりだすための政府側の思惑もあったのではないか」(日本総研・河村小百合)。メディアも同様に指摘する。要は、大軍拡のための増税に反発する世論を恐れ、小手先の対応に日銀を利用しているのだ。

生活安定の政策を

 このまま円安が続くと、物価が上がり、一握りの大企業以外は賃上げが望めず、生活はさらに苦しくなる。「今の円安は異次元緩和のつけを払わされている」(7/1日経)のであり、「異次元の金融緩和」をやめ、大もうけした企業の利益を吐き出させる必要がある。

 そして金利引き上げがもたらす国債費(金利支払い)増から社会保障費等の削減という市民へのしわ寄せ、犠牲転嫁を許さず、消費税減税・廃止、全国一律の最低賃金引き上げと中小零細企業対策による賃金底上げなどで市民生活を守らなければならない。
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