2024年09月13日 1837号

【低すぎる最低賃金時給1055円/多くの非正規労働者が最賃ぎりぎり/ただちに全国一律1500円実現へ】

 2024年度の都道府県別最低賃金が8月29日に出そろい、時給の全国平均は前年度比51円増の1055円になったと厚生労働省が公表した。引き上げ額は過去最大と大きく報じられた。

国の「目安」上回る額

 注目すべきは、国の中央最低賃金審議会が示した「目安」50円を27県で上回り、徳島は84円増の980円と異例≠フ大幅引き上げを決めたことだ(表1)。最低賃金は各都道府県を3ランクに区分するが、初めて全ランク共通の目安額50円が示されていた。最低賃金額の低い県でこの50円を大きく上回る引き上げとなったのは、格差が大きいことで人手不足が生じるなど深刻な事態になっているからだ。



 たとえば、静岡の現在の最低賃金は984円だが、隣の神奈川は1112円と128円も高い。県境に接する市などから県境を超えて働きに行く人がいるのは当然だ。より高い隣県で働く学生アルバイトやパート労働者も増えている。人手不足を助長しかねない現象に対し、多くの県最賃審議会が目安50円を超えて少しなりとも格差解消に動いたものとみられる。こうした動向は、全国一律の最賃制の正当性を証明している。

引き上げは全く不十分

 最低賃金法第1条は「賃金の低廉な労働者について、賃金の最低額を保障する」と定め、違反は罰せられる。

 パートやアルバイトなど非正規労働者の多くは、労働組合が職場になく、経営側と賃金を交渉することは容易でない。厚労省の委託調査で、最賃に近い時給の人のうち時給が上がった人に理由を聞くと「最賃が上がったから」と答えた人が75・4%と最も高かった。最賃の引き上げは、非正規の賃上げに直結している。

 しかし、最賃の水準は主要各国と比べるとはるかに低い。内閣府の日本経済リポート(23年度)によれば、フルタイム労働者の賃金の中央値(賃金を低い順から並べた真ん中の賃金)に対する最賃の比率を比べた調査で、22年は日本が45・6%。フランスは60・9%、英国58%、ドイツ52・6%、韓国60・9%といずれも日本を上回った(表2)。



 厚労省によると、引き上げ後の最賃額を下回る賃金で働いていた労働者は、5人以上の事業所では8・1%で該当数は約360万人(23年)。30人未満の事業所に限った別の調査では21・6%と割合が高まる。法政大の山田久教授は「中小零細企業の5人に1人以上が最賃ぎりぎりしか支払われていない」と指摘する。

非正規=最賃近くが当然?

 日本では外食産業で働く、アルバイトやパートの大半が最低賃金近くの賃金で働かされているが、これは国際的には決して一般的ではない。『エッセンシャルワーカー』(田中洋子編著 旬報社)は「飲食業は非正規中心でないとまわらない、という認識は日本だけしか見ていない日本人の思い込みである」と、ドイツのマクドナルドを紹介する。

 ドイツのマクドナルドには6万5千人が1450の店舗で働いているが、スタッフが働く仕組みは日本と全く異なる。まず、正規・非正規の区別がない。働く時間はフルタイム、パートなどと選択でき、全員が同じ給与表に基づいて支払われ、ボーナスや諸手当も支給される。働く時間数が違っても労働条件・待遇は同じだ。だから勤続10年以上のスタッフが多く40〜50代では20年以上も少なくない。

 ドイツでは、外食産業の使用者団体と、飲食業で働く人の労働組合が結ぶ協約によって給与表が定められ、最も低いグループでもすでに1500円以上(2020年)だ(表3)。それは労働力の社会的格付けに基づく職務給となっている。



  *   *   *

 最低賃金の全国一律1500円即時実現は待ったなしだ。この闘いを、非正規春闘など非正規労働者の低賃金構造を打破する闘いと結合していくことが強く求められる。最賃引き上げに対応する中小企業への国からの補助金の抜本的増額とともに、大企業の下請けいじめをやめさせ公正な取り引きを実現させる闘いを強化しなければならない。
MDSホームページに戻る   週刊MDSトップに戻る
Copyright Weekly MDS