2024年09月13日 1837号

【植民地支配責任否定を乗り越え/日本政府に謝罪と賠償求め提訴/中国の日本軍性暴力被害者・遺族】

 今年4月に中国・山西省の日本軍性暴力被害者遺族18人が、8月に湖南省の日本軍性暴力被害者8人が、日本政府の公開謝罪と賠償を求めて両省の高級人民法院に提訴した。中国の被害者本人・遺族が日本政府を相手取って中国で裁判を起こすのは初めて。両人民法院が訴状を受理するかどうかが注目されている(湖南省人民法院からは8月下旬、不受理の通知があった)。

 中国の被害者が中国で提訴に踏み切った背景には、韓国のソウル高等法院が昨年11月、日本政府に対し日本軍「慰安婦」被害者・遺族16人に賠償するよう命じた判決がある。日本政府は国際慣習法上の規則である「主権免除=主権国家は他国の裁判権に服さない」を盾にこの裁判に参加せず、判決を「国際法違反」と非難し、韓国政府に「適切な対応」を求めた。しかし、判決はこう宣言している。「法廷地国の領土内で法廷地国の国民に行われた違法行為の場合、その行為が主権的行為と評価されるかどうかを問わず免除を認めないのが現在の有効な国際慣習法である」

 京都府宇治市ウトロ出身の在日コリアン3世で弁護士の具良ト(クリャンオク)さんは8月14日に都内で開かれた「第12回日本軍『慰安婦』メモリアル・デー」で、「正義を求める声は世代を超えて〜普遍的人権の実現に向けて」と題して基調講演。「主権免除」の法理を乗り越え、「人類共同体が目指す人間の尊厳の尊重、人権を侵害された個人の保護」の機能を果たすべく変化・発展しつつある今日の国際法の歩みを解き明かした。

国家中心から人権中心へ

 国連の「現代的形態の人種主義・人種差別・外国人排斥および関連する不寛容に関する特別報告者」は2019年8月、「加盟国は、奴隷制と植民地主義に対する賠償に適用される法律そのものを脱植民地化すべきである。国際法学者や裁判官は、適用可能な法原則の脱植民地化を確保するよう自らの役割を果たさなければならない」とする報告書(A/74/321)を総会に提出した。その意義について具さんは「国家中心主義から人権へ、国際法のパラダイム(規範)は変化している。『慰安婦』問題は人道に対する罪に相当する人権侵害であり、日本の植民地支配下で引き起こされた。旧来の主権免除のあり方に拘泥(こうでい)するのでは、人種主義と性差別にまみれた歴史的不正義が国際法の名のもとに不問に付され、永続化されかねない」と指摘する。

 メモリアル・デーでは、「慰安婦」問題を記憶・継承しようと活動する「希望のたね基金」の若者らが、山西省裁判の原告・楊秀蓮さんの証言を朗読した。楊さんの養母は戦争中、日本兵に連日レイプされ、戦後その被害がもとで患った病気の苦しみに耐えかねて自殺。楊さんは「私は日本軍の侵略により母を、母の愛を失った。母の無念を晴らしたい。母の愛を取り戻したい」と裁判に加わった。

 フェミニズム自主ゼミナール「ふぇみ・ゼミ」は「中国での日本軍性暴力被害者及び遺族の提訴を受け、日本政府に謝罪と賠償を求める声明」を発し、賛同を呼びかけている。
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