2024年09月13日 1837号
【コラム 原発のない地球へ/いま時代を変える/多発しているのは小児甲状腺がんだけではない】
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1986年4月に発生したチェルノブイリ原発事故は、さまざまな疾病をもたらした。がん(甲状腺がん、乳がん、脳腫瘍など)、遺伝的障害(奇形、死産、不妊症)、それ以外にも内分泌疾患、脳神経疾患、循環器疾患、消火器疾患、精神疾患などの多発が明らかになっている。ウクライナでは、健康に異常のない避難民の比率は1987年には59%だったが、1996年にはわずか18%に低下した。
では、2011年3月に起きた福島第一原発事故はどんな健康影響をもたらしたのだろうか。小児甲状腺がんが多発していることは県民健康調査で明らかになっている。ただし、いまだに国や福島県立医大はその原因が放射線被ばくであることを認めようとはしていない。それ以外の疾病についてはほとんど報道されることがない。それは日本政府が、チェルノブイリ原発事故で国際原子力推進機関が公式に放射線被ばくとの関係を認めた唯一の疾病が小児甲状腺がんだったこと(同事故の処理作業に携わった「リクビダートル」と呼ばれる人びとは別だが)を盾に、調査対象を初めから小児甲状腺がんのみに絞っており、そのことが研究者や医療関係者、メディアへの圧力となり、大手メディアは安倍政権下で政権監視の役目を放棄し自主規制しているからだ。
そういう状況の中で、2016年10月に医療問題研究会の医師たちが、汚染された6県(岩手・宮城・福島・茨城・群馬・栃木)と3都県(東京・千葉・埼玉)で周産期死亡(妊娠22週から生後1週間までの間の死亡)が原発事故後にそれぞれ15・6%、6・8%上昇していることを発表した。
また、ジャーナリストの明石昇二郎さんは、全国の「がん年齢階級別罹患(りかん)率」と福島県の同罹患率を比較し、男女別に標準化罹患率比(SIR)を算出している。SIRが100超ならば全国平均より高いことになる。さらにSIRの「95%信頼区間」を求め、その「下限」と「上限」を算出。「下限」が100超なら「統計的に有意な多発」だという。
福島県では「胃がん」のSIRの「95%信頼区間」の「下限」が男女とも2012〜2019年に連続して100を超えている。また「胆のう・胆管がん」のそれは、男では2013〜2014年と2016〜2019年が100超、女では2014〜2019年連続して100を超えている。この2つのがんの多発は放射線被ばくの影響と考えるべきだろう。
米国CDC(疾病管理予防センター)のがんの最短潜伏期間に関するレポートによると、固形がんは4年、中皮腫は11年となっており、これから症状が現れるがんもある。放射線被ばくの健康影響について長期的に調査するのは、本来なら国の役割だ。だが、国が健康被害を隠そうとする中で、明石さんのようなフリージャーナリストの仕事は貴重だ。そうした取り組みに注目し応援していこう。 (U)
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