2024年09月20日 1838号

【岸田政権3年間の悪行/軍事費2倍化で財政・経済を改変/軍拡は海外権益確保のため】

 岸田政権最大の悪行は財政の構造を軍事優先に改変し、軍需産業育成を正当化したことだ。安倍政権以来、これまでの間に軍拡路線へと「大転換」をはたしている。岸田政権は残された「宿題」をいくつも片付けていった。次の政権に、岸田政権の定めた軍事3文書を既定方針として、軍事費2倍化にむけた増税、監視社会へつき進ませるわけにはいかない。

宇宙軍創設へ

 防衛省は、来年度概算要求額を8兆5389億円とした。対前年度比10・5%増の過去最高額。今後も、2027年度10兆円超に向けて、毎年度過去最高額を更新していくつもりだ。

 岸田政権が改定した軍事3文書(22年12月)は5年間で軍事費倍増(対GDP比2%)、総額約43・5兆円にする方針だ。3年目となる来年度、概算要求通りであれば、その6割強を契約することになる。

 概算要求では、「スタンド・オフ防衛能力」と言い換えた敵国攻撃能力、長射程化した国産12式ミサイルの配備、米国製トマホークの購入をともに1年早める他、潜水艦の建造からステルス戦闘機の購入など、兵器配備を急いでいる。

 注目されるのは宇宙空間での新規事業の立ち上げだ。ミサイル攻撃の威力を高めるために「攻撃目標の探知、追尾能力の獲得」をめざす人工衛星の打ち上げの準備に入る。スパイ衛星網の構築を始めるというのだ。多数の小型人工衛星を連携させる「衛星コンステレーション」。民間の資金・技術を利用するPFI方式を採用。軍民一体の運用となる。

 あわせてXバンド防衛通信衛星(きらめき2号機)の更新、それに連動し「航空宇宙自衛隊」設立に向けた組織改編・強化を始める。これら「宇宙領域における能力の強化」として約6千億円を求めている。

 経済安保体制の強化、軍需産業の育成策も計上されている。昨年制定した「防衛生産基盤強化法」を掲げ、「力強く持続可能な防衛産業の構築」として約1千億円強を要求。武器セールスのための費用400億円も含めている。防衛省の研究開発費要求額6596億円は、文部科学省が科学研究費助成事業(科研費)として要求した額2492億円を大きく上回る。「技術の差が闘いの勝敗を決する」「対処能力の早期実現」と位置づけ、軍産学の連携を「当たり前」にしようとしているのだ。


海外投資国日本

 軍拡シナリオは「中国との戦争」を前面に押し出しているが、安倍政権下で急速に進んだ安保法制は「邦人保護」のための海外派兵、武力行使を可能にするものだったと言える。

 2013年1月、アルジェリアで天然ガス精製プラントが武装組織に襲われ、日本人10人を含む外国人37人が死亡した。第2次安倍政権発足直後のことだった。その年、自衛隊法を改定、「邦人救出のための陸路輸送」(特殊部隊派遣)を可能にした。並行して、集団的自衛権行使を容認する戦時法が次々と制定されていった。

 戦争国家づくりを急ぐ背景には、日本資本の対外直接投資が増え続けていることがある。22年の対外直接投資は米国が4263億ドルでトップだが、日本は2位のドイツ1789億ドルに僅差の1754億ドルで3位。4位は中国1497億ドルである(国際貿易投資研究所報告)。

 どの地域に投資が行われてきたのか。14年から23年までの対外投資残高を見ると、ASEAN(東南アジア諸国連合)の比重が増していることがわかる(日本貿易振興機構)。20年末では北米や欧州を上回る投資残高がアジア太平洋地域にあった。その中でもASEANへの蓄積が進んでいるのだ。22年、ASEAN域外からの投資国のトップは米国366億ドル、2位は日本267億ドルで、中国の154億ドルを上回っている(ASEAN Stats)。

 ASEANでの直接投資残高は日本がトップの座にある。これは市場と低賃金労働者を求めて日本資本が進出した結果であることは言うまでもない。アジア経済圏での覇権争いが、「台湾有事」の背後に隠れているのである。

 

アジア版NATO

 第2次安倍政権発足直後の13年1月、安倍はベトナム、タイ、インドネシアを相次いで訪問した。ASEANとの「経済連携の強化」は岸田政権も力を入れ、首脳会談を重ねた。日ASEAN防衛協力イニシアティブ「ビエンチャン・ビジョン」(16年)をバージョンアップし、経済とともに軍事的緊密化をはかろうとしている。

 武器輸出の条件となる「防衛装備品・技術移転協定」。既に東アジアではフィリピン、インドネシア、ベトナム、タイなどの7か国との間で締結している。兵器の共有は軍事協力の重要な要素だ。

 日本のグローバル資本は、低賃金労働を維持し労働者の権利を抑圧する投資先の国の政府を歓迎し、治安弾圧装置である軍隊との協力関係が不可欠だと考えている。日本政府はそれに応え、いつでも「邦人保護」を名目に自衛隊を送り込むことができる、そんな体制・関係を一刻も早くつくりたいのだ。アジア版NATO(北大西洋条約機構)をめざすのはそのためでもある。

 軍事クーデターが起きたミャンマーに対する岸田政権の対応は、この事情をよく示している。岸田は「法の支配に従い、力による現状変更を認めない」と繰り返し述べるが、ミャンマーの軍事クーデターに対しては別だ。口先の批判は行なっても、欧米と歩調を合わせた経済制裁はしない。より低賃金労働が確保できさえすれば、軍事政権でも構わないのだ。


政策転換へ闘いを

 軍拡政策の継承を阻止しなければならない。

 その一つが軍拡増税を許さないことだ。木原稔防衛相は概算要求の発表に合わせて、「税制改正」に言及した。「防衛力強化に係る財源確保のための税制措置を要望」と述べている。

 各地域での反基地運動も重要だ。概算要求では、沖縄では北大東島へのレーダー配備も含め基地整備費が2・3倍の約1千億円。辺野古新基地建設費などSACO(沖縄に関する特別行動委員会)関連は額を示さず、事項要求としている。佐世保、呉の基地整備や各地の弾薬庫の整備など「強靭化」予算は約8655億円。沖縄と全国を結んだ反基地の闘いを一層広げていく必要がある。

 東アジアの平和と民主主義を守るために、軍拡政治の大転換を勝ち取ろう。
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