2024年09月27日 1839号

【「夢洲」が暴く維新の罪悪/危険満載 カジノのための万博会場/命より利益優先政治が凝縮】

 大阪・関西万博の開幕予定(2025年4月)まで約200日。いまだパビリオン建設は見通せず、メタンガス爆発の危険性、避難計画の不備などの指摘に、明確な答えは示されていない。大阪万博が失敗に終われば、続く大阪カジノ開業もあやしくなる。廃棄物埋め立て地「夢洲(ゆめしま)」を会場に選び、売り出そうとしたことが、維新の利権政治を改めて浮かび上がらせた。

「遅れ」の原因

 25年大阪万博開催にとって、課題の一つはパビリオン建設が間にあわないのではないかということだろう。

 主催者である2025年日本国際博覧会協会(25年万博協会)は9月10日の時点で参加161か国、8国際機関のうち、22か国・地域が利用パビリオンが決まらず、独自パビリオンを建設する4か国は建設会社が決まっていないと公表した。

 完成した建物を使用するには建築基準法などの検査の他、発注者・主催者の検査もある。このため、25年1月13日までに工事を完了し、検査を受するよう指示されている。いまだ建設会社と契約できない国はもとより、建設中のパビリオンでも年内に完成させることはほぼ不可能といえるだろう。

 パビリオン建設が遅れた原因は地盤条件にあった。パビリオンは半年間の仮設建築物とはいえ、基礎の強度は緩和されない。主催者は「地表から2・5b以深に地盤を固化した層があるので掘削は2・5bまで」とし、掘り下げた土の重量までの重さの建築物にするよう示している。地盤が不同沈下し、建物が傾く恐れがあるからだ。

 それを避けるには硬い地盤まで杭を打つことになる。「杭基礎の場合は引き抜きが可能な工法とすること」が条件だ。杭の長さは約50b、建設費用は杭の引き抜き・処分代も合わせれば、数倍ではおさまらない。

 基礎地盤によって建築物の構造やデザイン、予算が大きな影響を受けるのだ。参加国にとって主催者の条件は大きな「誤算」だった。

なぜ「夢洲」に

 軟弱地盤、液状化、有毒物質、引火性ガスなどなど。夢洲は、表層だけ固化剤で固め土砂で覆っても、およそイベント会場にするには不適当な場所だった。アクセスが悪く、災害時に避難ができないのは致命的だ。

 なぜ最悪の条件が揃った夢洲が会場となったのか。

 大阪万博誘致が公表されたのは13年9月の大阪府議会本会議。松井一郎知事(当時)が「日本、大阪の成長の起爆剤となる」と表明した。大阪府が設置した有識者による「誘致構想検討会」があげた候補地6か所に「夢洲」はなかった。

 この後、経済界を含めた新たな「万博基本構想検討会議」を発足させ、回を重ねるごとに松井知事の試案「夢洲」案が定着していく。この間の事情をジャーナリスト木下功は「IRと万博の誘致の過程を見ていくと、時期も舞台も絡み合うようにして進んでおり、万博をIR誘致のためのインフラ整備に利用したのではないかという疑念は拭えない」と書いている(松本創編著『大阪・関西万博「失敗」の本質』ちくま新書)。

 橋下徹が大阪府知事だった2009年、夢洲カジノ構想をぶち上げた。松井の万博誘致発言の4年前だ。府・市と関西経済団体で構成する「夢洲・咲洲地区まちづくり推進協議会」の初会合の場だった。半年後、超党派国会議員による「国際観光産業振興議員連盟」(IR議連)ができ、ほぼ同時期に地域政党「大阪維新の会」が旗揚げしている。維新(橋下、松井)と自民(安倍、菅)の関係が深まるにつれて、カジノ法案(16年)が成立し、大阪万博誘致が閣議決定(17年)された。

 維新は都構想(府市首長独占)による政治権力の集中とカジノ・万博による利益誘導で政治基盤を固めてきたと言える。当初、カジノ・万博に及び腰だった経済界も政権の後押しと「維新人気」につられ、「夢洲」での儲け話に乗っていった。

目先の利益

 では維新があげる「経済効果3兆円」は万博開催を正当化できるのか。

 APIR(一般財団法人アジア太平洋研究所)の試算によれば、万博自体にかかる建設・運営費などで7275億円、来場者の宿泊・消費で8913億円、合計1兆6188億円が直接需要であり、ほぼ同等額の波及効果があるとして、経済効果は合計3兆2141億円とした。入場者数2850万人や一人当たりの消費額が高めに設定されているなど、この試算を鵜呑みにするわけにはいかないが、たとえ3兆円の経済効果があるとしても、万博を正当化できるわけではない。

 波及効果だけを考えても「建設」部門よりも「社会保障・医療・保健」の方が大きくなる研究はいくつもある(例えば自治体問題研究所編集部『社会保障の経済効果は公共事業より大きい』自治体研究社、他)。イベントで「活性化する経済」の恩恵は、限られた業界に集中するということだ。

 わずか半年間のイベントにかける税金は政府、府市のパビリオン建設・解体費などを含め3千億円以上になる。この他にアトラクションやインフラ整備の費用が上積みされる。インフラ整備は明らかに、IR・カジノ事業者に便益をもたらすものだ。

 既に大阪市はIR・カジノ事業者のために地盤改良費用を負担することを決めている。市が地盤改良工事を行うこと、カジノ事業者の言いなりの額で随意契約したことなど、公金支出のルールを無視する許されない行為だ。これに関しては、市民による差し止め訴訟が起こされている。

 カジノ事業者に利益をもたらす一方で、ギャンブル依存症のリスクや対応を市民や行政に押し付ける。この構造は万博も同じだ。交通混雑の緩和のため万博会場に隣接するコンテナの取扱量を減らしたり、ガス爆発や災害対応は行政任せ。利益だけ手に入れ、社会的リスクの責任を負わない。そんな勝手は許されない。



   *  *  *

 1970年大阪万博の誤った「成功体験」が、維新の「成長の起爆剤」幻想を成り立たせている。実際は、70年万博をピークに経済は降下していった。過去の万博から教訓を得るのならば、1903年内国勧業博覧会だろう。会場となった大阪南部、天王寺は歓楽街「新世界」が形成された。問題は、会場建設のために貧困層を追い出したこと、パビリオンの一つ「学術人類館」に琉球・アイヌ・台湾・朝鮮などの先住民族を檻(おり)に入れて「7種の土人」として展示したことである。

 「博覧会は始まりからナショナリズムと植民地主義を煽り立て、貧民を邪魔者扱いして立ち退かせる権力装置」(神戸大学大学院準教授原口剛)だった。目先の利益を優先し、弱者を切り捨てる維新政治に対する痛烈な批判としなければならないのである。

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