2024年09月27日 1839号

【ふたつの太陽 命を紡ぐちいさな生きものたち/ビキニ水爆被災70年 山内若菜展/10月10日から都立第五福竜丸展示館で】

 米国がマーシャル諸島ビキニ環礁で水爆実験をおこなってから70年。被ばくした静岡県焼津港所属の遠洋マグロ延縄(はえなわ)漁船「第五福竜丸」が保存展示されている場所で10月10日、「ビキニ水爆被災70年 山内若菜展」が開幕する。

 東京・江東区の「都立第五福竜丸展示館」で3か月以上にわたり開かれる「ふたつの太陽 命を紡ぐちいさな生きものたち」。中心となる作品は3b×15・2bの「二つの太陽」だ。山内若菜さんは語る。「この絵を第五福竜丸と共鳴させたい、響き合わせたい。第五福竜丸がそこにあることが感動。わたしの茶色い絵は第五福竜丸の地肌と似ている。絵と第五福竜丸が一緒に声を上げられたら」

 「二つの太陽」は、水爆爆発の瞬間、夜明け前の洋上に閃光が走り、「西から太陽が昇った」と実感したという乗組員の証言に着想を得ている。閃光から2時間後、彼らの上に死の灰が降り注ぐ。真っ赤で黄色いもう一つの太陽。「どれほど美しかったか。だけど、どれほど恐ろしかったか。被ばくした船は何百隻。マグロもたくさん死んだ。プランクトンをはじめ多くの微生物、海の動物たちがどれだけ被ばくしたか。マーシャル諸島の人たちがどれだけ苦しんできたか」

 若菜さんは「死と滅亡」でしかない「もう一つの太陽」のイメージを反転させる。そこに、海の小さな生きものたちの「生命の光」「希望のあかり」を見いだす。「二つの太陽は、土の中の宇宙に光る微生物と、海中に灯す植物プランクトンの命の光への畏怖と見ることもできる。広島の原爆とビキニの水爆、どう世界をつくるかという問いもできる。また、黎明から赤い朝焼けの時系列として自然の流れにも見える。多重の意味で『二つ』です」

 「死」の中に「生」を見る。死んでいく動物たちを「生きゆく命」のメタファー(隠喩〈いんゆ〉)とする。福島の牧場に通い、牛や馬の「生と死」に向き合って以来、若菜さんが一貫して追求してきたテーマだ。

 それは「船」も同じだという。出展する絵の取材のため、展示館に頼んで第五福竜丸の内部を懐中電灯で案内してもらった。「被ばくした内部が暗い中で叫んでる感じがした、『おれにも命があるんだぞ』って。それもしっかり描いた。みなさんも中に入った気持ちになってもらえると思う」

 今回の展示に託した思いは何か。「原爆があり水爆があり福島原発事故があった。もっと怖いことがこれからあるかもしれない。そんな世の中に対する警告です。虐げられ、モノみたいに扱われる命でいいはずがない」。同時に、こんな期待もある。「絵の前に立つ方と心を震わせる時間を持ちたい。写真や携帯の小さな画面じゃできない。わたしの絵は凹凸がすごくあって、地肌とわたしが感じとったものとの対峙がぎゅっと詰まっている、人間の心のひだのように。その裏側にあるもの、向こう側の世界を見に、行ったり来たりを楽しんでいただければ」

「二つの太陽」

はじまりはもっとも小さな声
命の発露

時を越えて二つの太陽は現れた
微生物・プランクトン
二つの生命の光か
滅亡の光 地上にうまれおちた灯
私は生命の光、希望のあかりをとりたい
夜明け玉は光る そして僅か少しずつ大きな光へ
希望への黎明から赤い朝焼へ
今 闇の時代から希望の太陽は昇った
動物プランクトンが産み出した深海からのエネルギー
炎となりひかりとなり太陽となり
第五福竜丸となり光に灯に
火の玉は人の心に灯す
わたしは二つの太陽をかかげた

あらゆる生命の讃歌を謳いたい



インフォメーション

■10月10日〜2025年1月19日 都立第五福竜丸展示館 入館無料
 9時30分〜16時 月曜休館(月曜が休日のときは開館し火曜休館)
 江東区夢の島2-1-1 夢の島公園内
 TEL: 03-3521-8494

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