2025年01月31日 1856号

【石破政権の「税制改正大綱」/軍事増税を推し進め/減税も生活改善にはほど遠い】

 「103万円の壁」(注)をめぐって政治的な駆け引きが続いている。自民・公明与党は12月20日、これまで協議の相手としていた国民民主党の要求をそのままは受け入れずに独自の税制改正大綱を発表した。

 12月27日、石破政権は、与党の税制改正大綱を受けて103万円の壁を123万円の壁にすることを含む「2025年度税制改正大綱」を閣議決定した。「税制関連法の成立は見通せない異例の事態」(12/28朝日)との指摘もあり、国会での審議によってはこの額も変わりうる。

 本質的には、「生計費(生活を維持するために必要な経費)非課税原則」が現状では保障されていないこと、「壁」の存在は非正規の低賃金労働者拡大策と一体のものとしてあることなど、解決すべき根本的問題を議論しなければならない。そのための前提として、ここでは、25年度税制改正大綱の問題点を指摘したい。

「税制改正大綱」

 今回の大綱の主な狙いは、103万円の壁問題をできるだけ少ない財源で乗り切り、軍事費拡大への道を確定させようとするものだ。

 具体的に見てみよう。

 103万円の壁に関わる部分で、大綱は次のような内容を示す。生活必需品の物価上昇率を根拠に所得税で給与所得控除と基礎控除の合計額を123万円とする。給与所得控除の最低保障額を55万円から65万円に、基礎控除を48万円から58万円にそれぞれ引き上げる。

 今改定では、住民税の基礎控除の引き上げはしない。ここには、地方税の減収となることに対する自治体の反発を避ける意図がある。だが、インフレが進めば住民税の基礎控除をそのままにしておけず、早晩、引き上げは避けられないだろう。ご都合主義の対応だ。

 さらに、給与所得控除は最低保障額の10万円引き上げに限られ、この部分の減税対象者は年収190万円までで、年収がそれ以上の人については従来どおりとなる。減税対象を極力、絞るための方策である。

 大綱は、「賃上げと投資が牽引する成長型経済」への移行を実現し「経済社会の構造変化等に対応」することを強調する。ところが、全体の減税規模は6000億〜7000億円程度で、目立った消費押し上げ効果にはつながらない。

 さらに、「防衛特別法人税」実施が26年4月から始まり、軍事費のための増税が進められていく。

軍事費削減で財源確保

 大綱による減税効果は、年収300万円では年に約5000円、500万〜600万円で約1万円、800万〜1000万円で約2万円。この程度の収入増では、急激なインフレによる生活苦には焼け石に水だ。



 収入の大幅な増加で消費を伸ばさなければ「成長型経済」など実現しようもなく、大綱の強調点は絵にかいた餅になるだろう。

 与党は103万円の壁問題では財源を盾に引き上げに難色を示すが、一方、軍事費についての財源は一切問題視しない。軍事費増を聖域化して、法人税増税、たばこ税の段階的引き上げで財源をねん出する。まずは、軍事緊張を高め市民生活にとって不要不急≠フ最たるものである軍事費を削減すべきである。



 今回、1980年代後半以来減税され続けてきた法人税について、与党は「防衛特別法人税」で増税に踏み込んだ。大綱は、従来の法人税減税が国内投資や賃上げに効果的でなかったからと言うが、本音は、初の内部留保600兆円超(23年度末)と減税でぼろ儲けし放題の大企業らを差し置いて庶民に軍事増税することへの強い批判を恐れたことにある。だが、その法人税増税を軍事費に使うことの根拠は全く示されない。

 法人税増税分は、軍事でなく消費税の減税・廃止など市民の生活改善に使うべきだ。さらに8・7兆円(25年度予算案)の軍事費を大幅削減すれば、教育・医療・福祉の財源に回せる。

 また、法人税増税に踏み込むのであれば、大企業に恩恵が集中する不公平税制の是正こそ行うべきである。

(注)給与収入が給与所得控除の最低額と基礎控除を合わせた103万円を超えると所得税が発生する。そのボーダーラインをさす。
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