2025年01月31日 1856号

【未来への責任(412)/なぜ長生炭鉱問題に関わるのか】

 「平和と生活をむすぶ会」から、長生(ちょうせい)炭鉱問題になぜ関わるようになったのか、その思いを聞きたいとの話があり、私自身改めて振り返ってみた。

 直接的なきっかけは、2022年の「長生炭鉱の水非常を歴史に刻む会」が主催した遺骨返還シンポジウムで「沖縄をはじめとした戦没者のDNA鑑定の取り組み」として国との交渉経過などを報告したことだった。当時私は韓国人戦没者遺族のDNA鑑定の参加を政府に認めさせることで行き詰まっていた。そんな時、韓国人遺族と沖縄戦遺骨収集ボランティア・ガマフヤーの具志堅さんと出会った。沖縄・韓国・東京(国会)を行き来して取り組むようになった。

 その過程で、政府に遺族の声をぶつけても、遺骨と韓国人遺族のDNA照合に政府が応じない。「韓国政府から正式に依頼がない」「返還の条件が合わない」と逃げる。「つまり謝罪したくないということか」と追及すると「日本人の照合が終わっていないので理解してほしい」に代わり、政府は交渉でも国会でもそう繰り返している。

 太平洋戦争被害者補償推進協議会イ・ヒジャさんから「何か違う他の新しい方法を考えないと…」という話が出た。「新しい方法とは?」。答えは出なかった。

 沖縄南部土砂のことは大きく報道されても、同じ場で行う韓国人戦没者のことは報道されない。画期的なタラワ島の遺骨の日米韓共同鑑定のことさえ小さな記事だ。植民地支配に基づく戦後処理問題が無視されるのは、安倍元首相の「次世代に謝罪する宿命を背負わせない」発言を受けた徹底した歴史修正主義の浸透、報道統制と自主規制だ。政府交渉を繰り返すだけの自分の非力さに、次々と亡くなっていく遺族を思い泣けてくる。

 「刻む会」からの協力依頼があった時、長生炭鉱の問題をクローズアップし、状況を変えることができるかもしれないという考えが浮かんだ。今も残るピーヤの現場や開けた坑口の映像。人々が植民地支配の現実を知り関心が一挙にひろがりタブーが消えていくと思えた。その国内の関心が政府との力関係を変える「新しい方法」になると思えた。

 実際、長生炭鉱の坑口が開くと同時にマスコミの良心のふたも開いた。狭い坑道の出現は、映像としてその強制労働のおぞましさを全国に伝える。坑口前での遺族の祭事は、昔のことではなく今も植民地支配で苦しむ人たちがいることが伝わっていく。報道も一緒に植民地支配の加害責任問題のタブーと闘い始めている。

 もちろん私は「新しい方法」のためだけに取り組んでいるのではない。

 遺骨問題とは何か?人が死ぬだけでも家族にとって大変なこと。それも植民地支配の理不尽な扱いによって、さらに亡くなって遺骸も帰らない。理不尽の上に理不尽を重ねている。ご遺族の苦しみを聴けば黙っておれない。それが私の遺骨問題であり、すべてである。

(長生炭鉱の水非常を歴史に刻む会 上田慶司)
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