2025年02月21日 1859号
【憲法・国連人権規約に抵触する労基研報告書/脇田滋さん「国際基準の労働人権実現へ」/首都圏なかまユニオン春闘学習会】
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労働基準法を骨抜きにする報告書が厚生労働省の研究会から発表される一方、「スキマバイト」という名の不安定でリスクの大きい「新たな働き方」が広がっている。首都圏なかまユニオンが2月9日に開いた春闘学習会で、労働法学者の元龍谷大学・脇田滋さんは「スキマバイトから考える労働基準法」と題して講演した。(編集部の責任で抜粋・要約しました)
労働基準関係法制研究会には次の3つの課題をまともに議論してほしかった。
1つは労働法形骸化の厳しい現実を直視すること。長時間・過密労働、身分差別に等しい非正規雇用の拡大、職場での多様なハラスメント、高い離職率と人手不足、労働組合の後退と低い労働協約適用率…労基法が「最高基準」化し、日本の労働劣化が際立つ。
2つ目は労働人権の拡充に進む国際動向を踏まえること。日本はILO(国際労働機関)条約勧告適用専門家委員会や国連ビジネスと人権作業部会などから再三、勧告を受けてきた。
3つ目は規制緩和から方向転換すること。労働時間規制の適用除外拡大など違法状態の広がりが追認・合法化されてしまっている。
労働法制さらに形骸化
規制緩和が本格的に始まる前の1975年、非正規雇用労働者は83万人(労働者全体の中での比率は約10%)だったが、2023年には2124万人(同37%)に増加。同じ期間に労働組合組織率は34・4%から16・2%に低下し、労働争議による損失日数は800万日以上から約3600日へと激減した。
報告書はこうした現状を無視し、労働法制をさらに後退・形骸化させる。デロゲーション(適用除外)の言葉はなくなったが、強制力がある労働基準監督の対象となる「ハード・ロー」よりも、使用者の努力義務や自主改善、行政指導などでお茶を濁す「ソフト・ロー」の考え方が目立つ。
「労働法の無い世界」をILOは「インフォーマル経済」と定義し、法的拘束力がある法規制と罰則を伴う監督の強化による法違反の是正、社会的保護の拡大を重視する。報告書はこの視点を全く欠いている。
研究会座長の荒木尚志(たかし)東大大学院教授は、ゼミで学生に「使用者も納得できる労働法解釈が必要」と説いた。「ソフト・ロー」議論の旗頭が荒木座長。「労使コミュニケーション」という概念は労働組合の地位を貶(おとし)め、労働者の団結活動を重視する憲法やILO条約・勧告、国連人権規約に抵触する。経団連の要望に応える報告書になっている。
スキマバイト 底辺労働
「スキマバイト」は日本の労働法の形骸化を象徴する。特徴は▽求職者と求人企業とアプリ(紹介業者)の三者関係による間接雇用▽1日単位・時間単位の不安定単発労働▽求職から賃金振込まですべてがスマホのアプリで行われるプラットフォーム労働―の3つ。
紹介業者タイミーやメルカリハロ、シェアフルなどの登録者は2000万人を超える。タイミーは大阪府をはじめ多くの自治体と事業連携協定を結んでいる。
しかし、いろんな問題が出てきた。「仕事が違う」「ドタキャン」「名前でなく“タイミーさん”と呼ばれる」「苦情を言うと登録解除」など。「闇バイト」求人が掲載されたことも。
22年に設立された一般社団法人スポットワーク協会の理事の一人が、労働政策審議会の会長を務めた鎌田耕一東洋大名誉教授。厚労省は事実上この協会の後ろ盾になっている。
「職業紹介」という建前だが、日雇い派遣に似ている。しかし、派遣の場合は派遣元と労働者の間に雇用関係があるのに対し、スキマバイトには雇用関係はない。底辺への競争、劣悪化を推進する働かせ方で、日雇い派遣よりもひどい。
世界は規制緩和から転換
世界は規制緩和一辺倒から方向転換し、EU(欧州連合)もILOもプラットフォーム労働者保護を進めつつある。世界の動向を踏まえた労働政策、労働法改革が必要であり、その原動力は労働者の団結活動だ。
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学習会では、スキマバイトしている組合員から「企業側のミスによるキャンセルは休業補償の対象になるか」と質問があり、脇田さんは「マッチング段階で契約は成立したと主張し、求人企業と紹介業者に賃金や休業手当の支払いを求めたらどうか。職業紹介事業の許可を取り消すよう厚労省に圧力をかけることもできる」とアドバイスした。
最後に、ユニオンの伴幸生委員長が「大幅賃上げ、人間らしい暮らしを求める要請署名」運動などの行動を提起した。

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