2025年02月28日 1860号

【極めて危険 サイバー対処能力強化法案/軍・警・民連携のハッカー軍団つくる】

 石破政権は2月7日、「サイバー対処能力強化法案」(新法)と関連法を改定する「同整備法案」(整備法)を閣議決定。今国会での成立を目指している。

 法案はサイバー攻撃を未然に防ぐことが目的と政府は説明しているが、その手段に攻撃元に対する先制攻撃が含まれている。

 データの保管や処理、提供するコンピュータであるサーバーが外国にある場合、これへの攻撃は主権侵害、侵略行為である。戦争へのハードルを一層低くするこの法案は、2022年に強化された軍事(安保)3文書の「国家安全保障戦略」に位置づけられた戦争法の一部なのである。

常時盗聴を合法化

 新法の名称は「重要電子計算機に対する不正な行為による被害の防止に関する法律」。

 政府の説明はこうだ。サイバー攻撃を受け、電気や通信・交通、金融などの基幹インフラや政府・自治体の機能が麻痺しては「国家及び国民の安全」が守れない。こうした攻撃を防止するためには、常時、通信を監視する必要がある。

 「サイバー攻撃はほとんどが海外から」としても、実際の攻撃元を特定するには、国内外のサーバーを探ることになる。あらゆる通信を監視対象とすることは当然というわけだ。

 同意なく情報を取得するこの行為は憲法第21条「通信の秘密を侵してはならない」に反するものだ。つまり、盗聴行為に法的根拠を与えるのが新法制定の目的の一つになっているのだ。

先制攻撃を正当化

 サイバー攻撃をどう防ぐか。「攻撃元のサーバー等に侵入し、無害化」をはかるという。新法案とともに提出された整備法案は、警察官職務執行法(警職法)と自衛隊法を改定して「無害化」を行うとしている。整備法案は、攻撃元のサーバーへの先制攻撃の権限を警察と自衛隊に付与するのである。

 警職法第6条(他人の土地・建物に立入を認める)に2項を設け、警察庁長官が指名する「サイバー危害防止措置執行官」に「(防止の)措置をとることができる」権限を与えた。国外のサーバーであっても「警察庁長官を通じて外務大臣と協議」をすれば可能としている。

 これは明らかに主権侵害に当たるものだが、政府は「緊急状態」の場合は「違法性は阻却(そきゃく)される」と強引な理屈をつけている。侵略行為であることを分かった上でやるということだ。

 自衛隊法には基地などの警護出動(第81条の2)の次に「通信防護措置」(第81条の3)の任務を加える。

 さらに法案は、通信サーバーの常時監視と先制攻撃に警察・自衛隊の他に民間企業をも組み込む。新法第45条「協議会」にIT業者を参加させ、警察・自衛隊と共に「被害防止」措置に協力させる仕組みを狙っている。

 この法案を一言でいえば、官民連携した合法的なハッカー集団をつくり、サイバー攻撃部隊をつくるものなのだ。その規模・能力は「欧米主要国と同等以上」(国家安全保障戦略)をめざしているのである。

   *  *  *

 イスラエルでは、ガザの住民を常時監視したデータからAIが決めた「ハマス戦闘員」を自動的に攻撃するシステムができている。いまやIT技術は軍事力の一部である。日本における公認軍民ハッカー集団が何をしでかすか。危険極まりない法案であり、断固阻止すべきものだ。

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