2025年02月28日 1860号

【トランプ流「大リストラ」が始動/実行役はイーロン・マスク/超富裕層による寡頭政治】

 グローバル化から取り残された労働者の支持を集め、返り咲きを果たしたトランプ米大統領。だが、第二次トランプ政権の本質は「超富裕層による寡頭(かとう)政治」にほかならない。イーロン・マスクに代表されるIT長者たちは何をしようとしているのだろうか。

IT業界の「変節」

 「この国に警告したい。アメリカでは現在、極端な富、権力、影響力を持つ寡頭制が形成されつつあり、私たちの民主主義、基本的な権利と自由、誰もが成功を手にするための公平な機会を脅かしている」。バイデン前大統領は退任にあたっての演説(1/15)はこのように語った。

 さらに、1961年に当時のアイゼンハワー大統領が退任演説で「軍産複合体の台頭」に警鐘を鳴らしたことに触れ、現在の米国は「テクノロジー業界の複合体」の脅威に直面していると訴えた。「権力の乱用を監視せず放置すれば、危険な結末が待っている」

 この演説から5日後、トランプ大統領の就任式が行われ、巨大IT企業のトップがこぞって参加した。メタCEO(最高経営責任者)のマーク・ザッカーバーグ、アマゾン創業者のジェフ・ベゾス、アップルCEOのティム・クック、グーグルCEOのスンダー・ピチャイ、オープンAI・CEOのサム・アルトマン等々。

 連中は大統領就任式の基金にそれぞれ100万ドルを寄付したという。ザッカーバーグなどは就任式に間に合うように、フェイスブックとインスタグラムでのファクト・チェックを廃止すると発表した。トランプへの露骨なすり寄りだ。

 シリコンバレー(IT関連企業が多数生まれたカリフォルニア州の地域一帯)育ちの起業家たちは、移民が多いこともあり、民主党を支持する傾向が強かった。ところが、昨年の大統領選挙で異変が生じた。トランプ応援団に加わる者が相次いだのである。

テック右派の台頭

 マイクロソフト共同創業者のビル・ゲイツは「シリコンバレーはいつも中道左派だと思っていた。今や相当な右派グループが存在する事実に驚いた」と話す。この政治勢力を「テック右派」と呼ぶ。彼らは国家による市場の統制を嫌うリバタリアン(自由至上主義者)であり、様々な政府規制は「無意味で非効率的」「技術革新を妨げる悪」だととらえている。

 テック右派はバイデン政権が進めた巨大IT企業への規制強化策(独占禁止法の厳格適用など)に反発し、民主党を見限った。規制緩和と大幅減税を公約に掲げるトランプを大統領にしたほうが自らの利益にかなうと判断したのである。

 そうした寝返り組の代表選手が起業家のイーロン・マスク(テスラCEO)である。米紙ワシントン・ポストによると、彼は昨年の大統領選や議会選で共和党の候補者を勝たせるために、少なくとも2億8800万ドル(約447億円)を注ぎ込んだという。

 その見返りとして、マスクは「連邦政府の効率化と生産性向上」をうたう新組織「政府効率化省」(DOGE=ドージ)のトップに起用された(身分は特別職の国家公務員)。3段階で最上位の「トップシークレット」の機密情報にアクセスする権限も与えられた。

 マスクは「一部を残すのではなく、政府機関全体を廃止する必要がある」と豪語。自分の企業やシリコンバレーの仲間をドージに呼び寄せ、200万人以上の職員を対象とする大規模な人員削減に着手した。

儲けの邪魔を解体

 最初の解体対象に定めたのは、消費者保護を担う米消費者金融保護局(CFPB)と、米国の海外開発援助を担う米国際開発局(USAID)である。

 CFPBは2008年の金融危機後に消費者保護のために設立された機関で、銀行や消費者向け金融会社を監視している。これまで、累計約200億ドル(約3兆円)の債務を取り消しするなどの消費者救済措置を行ってきたという。マスクがCFPBを敵視する理由は明白だろう。一般大衆をたぶらかすことも辞さない金融ビジネスの邪魔なのだ。

 USAIDに関して言えば、大リストラの断行に弾みをつけるために、トランプ支持者の合意を得やすい組織として選ばれたのだろう。「多額の公金をアメリカ国民の利益にならない海外援助に使うなんて、米国第一主義に反している」というわけだ。

 マスクはUSAIDを「犯罪組織」と呼び、トランプも「急進的な左翼の狂人が運営している」と応じた。さらには「USAIDの資金がメディアに流れ、民主党に有利な世論誘導に使われた」と言い出した。このデマは日本でもSNSを通じて拡散し始めている。もはや「対岸の火事」では済まされない。  (M)

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