2025年03月14日 1862号
【本当のフクシマ/原発震災現場から(67)/3・11福島原爆事故から14年/原発労働者の間で高まる不安】
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3・11原発震災から14年が経過する。最近は大手メディアが福島を報じることもなくなった。エネルギー価格高騰に加え、人工知能(AI)などを口実に偽りの「電力不足論」も振りまかれ、「原発再稼働やむなし」の世論もじわり広がる。福島の現実を伝えることの重要性はますます高まっている。
「放射線不安」増加
東京電力が、下請労働者を対象に実施している「労働環境の改善に向けたアンケート」がある。同じ質問項目で定期的に続けているため、時間経過による変化を追跡しやすいのが特徴だ。
2024年9〜10月にかけて行われた第15回調査には、無記名式で5498人が回答した。放射線に対する不安が「ない」「ほとんどない」と回答した労働者が59・7%だったが、問題は前回調査(実施期間2023年7〜8月)では同様の回答が85・8%だったことだ。放射線に不安な労働者が一気に26・1ポイントも増えたことになる。

福島原発労働者の間に急激に増加する「放射線不安心理」の背景に何があるのか。東電は、関連設問で「身体汚染」への不安を感じると答えた労働者が増加していることを根拠に、2023年の「身体汚染に係る事例等」が一因の可能性があるとする。2023年12月、労働者4人がALPS(アルプス 多核種除去装置)の配管清掃作業中に汚染水を浴び、2人が入院した事故を指す。
この間、2023年8月から汚染水(いわゆる「処理水」)の海洋放出が始まっている。汚染水処理の作業管理もまともにできない態勢のまま、なし崩し的に始まった汚染水放出は、労働者の不安心理にも当然、影響していると見るべきだ。
災害体験と中傷
原発労働者の健康をめぐっては、2019年3月、順天堂大学医学部の野田愛准教授、谷川武教授らの研究グループが興味深い論文を発表している。「原子力災害関連体験による不眠症状は強く持続する〜福島原子力発電所員の追跡調査から〜」と題した論文では、原発震災を体験した労働者の間で、不眠症状が長期間続いているとする結果が報告されている。
深刻なのは、原発震災そのものよりも、労働者に対する差別や「誹謗中傷」と不眠との間により強い相関関係が認められたことだ。「命の危険」が不眠に与える影響が平時の最大1・65倍だったのに対し、差別、誹謗中傷は1・82倍に達し、しかも時間が経過しても影響が全く低減していない。
原発労働者のみならず、被害者全体に対する「賠償金で豪邸を建てている」などの無根拠の誹謗中傷はこの14年間、1日も休むことなく繰り返されてきた。不十分とはいえ賃金を受けている労働者ですらこの状態なのだ。「ないより少しマシ」程度の賠償金と引き替えにすべてを捨てて区域外避難し、激しいバッシングにさらされ続けてきた避難者の心労は筆舌に尽くし難く、大半が今なお続いていることは想像に難くない。
予測されていた困難
「福島第一の廃炉プロセスは、デブリ取り出し前、2027年に破綻する」と題した文書が私の元に届いたのは事故から1年半後の2012年10月だった。原発労働者に近い労働組合関係者だろうということ以外、筆者は今なお不明だが、14年後の今、改めて読み返してみると、政府・東電よりよほど事態を正確に予測していたことに驚かされる。
文書は、収束作業の初期段階では、除染や汚染がれきの片付けなど、廃炉と無関係な作業によって多くの労働者が強い被曝を強いられることを指摘する。
労働安全衛生法に基づく労働者の被曝限度は1年間に50_シーベルトまたは5年間で100_シーベルト。事故直後、一時的に年間で250_シーベルトに緩和されたが、2011年12月には元に戻されている。
文書はさらに、全国の原発労働者総数を7万5千人とし、このうち福島第一以外で働く労働者が3万2千人必要になると見積もっている。福島第一で働くことのできる労働者は最大でも4万3千人。これら労働者が被曝限度に達して現場から離脱しなければならなくなる時期を「15年後」、つまり2027年と予測した。
事態はほぼこの文書の予測通りに進んでいるように私には見える。未曾有の震災でも未来を予測することは不可能ではないのだ。
福島原発の収束作業に従事して白血病となり労災認定を受けたあらかぶさん(仮名)が、元請・竹中工務店に求めた団体交渉要求に関して、東京都労働委員会は1月29日、団交に応じるよう命じた。健康を破壊された原発労働者への補償はおろか団交にすら応じない。エネルギー不足で原発再稼働もやむを得ないと考えている人たちは、この現実を見て考えを改めてほしい。 (水樹平和) |
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