2025年03月21日 1863号
【米国・ウクライナ大ゲンカ≠フ役割/EU軍拡 仏「核抑止力を欧州に」/軍事で「平和の保証」は得られない】
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米大統領トランプとウクライナ大統領ゼレンスキーとの首脳会談(2/28)は、和平進展の期待とは反対に前代未聞の「公開口論」の場となった。停戦へのプロセスが見通せない状況だが、はっきりしたのは、この「口論」によりEU諸国が軍拡に前のめりになったことだ。世界の市民の闘いで好戦勢力を封じ込め、即時停戦と軍縮を押し付けることが和平への道を切り拓く。
口論の背景
今回の首脳会談のウクライナ側の目的は米国による「安全の保証」を得ることだった。ゼレンスキーは軍事支援継続・拡大の言質が欲しかった。「安全の保証と停戦」についてゼレンスキーは「単に停戦だけでは決してうまくいかない。私が大統領になる前のウクライナで、プーチンは25回も停戦を破った」と主張した。
トランプは「取り引き(停戦合意)すればプーチンは約束を守る」といい、レアアースの採取に米国が関われば、それが安全の保証になると答えている。
停戦協議とは、殺し合いをしている者同士が話し合いのテーブルに着くことだ。相互の不信を乗り越えなければ、始まらない。トランプが言うように「もし解決できなければ、彼らは戦い続けなければならない」ことになる。
トランプはゼレンスキーを「和平の準備ができていない」と追い返し、首脳会談の目的であった「鉱物資源の共同開発」の署名を見送った。軍事援助を一時停止し(3/3)、軍事情報の提供もやめた(3/11解除)。
「力による平和」
この会談は失敗だったのか。その後の展開は、両首脳にとっては悪くない結果につながっている。ウクライナへの「支援疲れ」が言われていた欧州各国が大軍拡と軍事支援拡大を表明したからだ。トランプが欧州に要求してきた軍事費増が実現したわけだ。
EUは特別首脳会議(3/6)で、フォンデアライエン欧州委員長が加盟国の「防衛力強化」を提案。今後数年間で最大8千億ユーロ(約128兆円)規模の「再軍備計画」を承認した。ウクライナには「揺るぎない支持」を約束している。フランス大統領マクロンは自国の核抑止力を欧州に広げるとまで表明した(3/5)。
ウクライナ戦争は米軍需産業にとって大きな市場だ。開戦後、米軍需産業の株価は軒並み急騰。バイデン前政権は「力による平和」を推し進め、まとまりかけた停戦を潰しさえした。トランプはなぜ、停戦を進めようとするのか。
軍需産業には米国民の税金を使わなくても、EU諸国の税金が代替してくれればよいと考えているのだ。トランプ政権は、NATO(北大西洋条約機構)加盟国に軍事費対GDP5%への引き上げを要求している。現在の2%を倍以上にせよと言っている。戦争による一時的消費から恒常的な市場拡大を狙っているのだ。

ロ・中分離戦略
トランプがウクライナ戦争を終わらせようとしているのは、これまでのロシア敵視政策が中国をはじめとした反米同盟の形成を促したと考えているからだ。
経済制裁で欧州から締め出したロシア産石油・天燃ガスをインドや中国などが引き受けた。ドルを基軸通貨とする国際決済システム(SWIFT)から追放しても、ロシアは中国が構築した人民元の決済システム(CIPS)を利用し、中国の影響力を強化することになった。
トランプがいま最も力を注いでいるのは対中国経済戦争だ。そのため、ロシアを中国から切り離す必要がある。
中国との主戦場は、AIをはじめとしたデジタル市場だ。トランプ政権の最大の支援者に多くのテック企業(IT技術を活用する企業)が名を連ねている。AI技術で世界をリードしてきた米企業だが、中国の新興企業ディープシークに追い抜かれようとしている。
デジタル機器の生産に欠かせないレアメタル(希少金属31鉱種)は、その多くを中国が生産している。液晶ディスプレイに使われるインジウムは中国が1位。レアメタルのうちレアアース(希土類17種)は6割を中国が産出、精錬・加工では90%を占めている。
ウクライナは昨年9月に作成した「停戦プログラム」に「天然資源の共同開発」案を盛り込んだ。トランプはそれに乗ったのである。

好戦勢力を抑える
ウクライナの平和と安全は軍事支援では保証されない。ではトランプの言うように資源開発に米資本が加われば実現するのか。戦争はグローバル資本の権益を力づくで守るために引き起こされる。ウクライナのレアアースはロシア軍占領地にも存在する。プーチンは、この占領地も合わせてレアアースの開発をトランプに持ちかけている。これが新たな火種になりかねない。
なによりも、資源の所有・活用も含め、その土地に住む人びとの意思が反映されなければならない。まず戦争をやめ、安心して生活ができる環境がなければ、住民の意志を表すことも決定することもできない。
ウクライナ東部ドンバス地方では2014年以来、親ロシア独立派とウクライナ政府軍との内戦が続いていた。14年、15年と停戦合意(ミンスク合意)が結ばれたが、ゼレンスキーが言うように、親ロ側の停戦違反が繰り返され、ウクライナ側もまた同様に攻撃を続けた。合意は事実上破棄された。
だが、その時合意にこぎつけたのはOSCE(欧州安全保障協力機構)が一定の役割を果たしたからだ。米ソ冷戦の時代に成立したCSCE(欧州安全保障協力会議)が改称・拡大したOSCEは欧州、北米、中央アジア57か国が参加する集団安全保障をめざす政府間組織である。米国もロシアも、ウクライナも加盟国だ。
経済的利害をむき出しにするグローバル資本の思惑を封じ込めるためにも、今一度OSCEを復権させ、戦争ではなく、交渉による和平を実現する時だ。
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ウクライナでもロシアでも、軍国主義政府の厳しい戒厳令や弾圧に抗し、市民の徴兵忌避をはじめ非暴力で即時停戦を求める動きが続いている。国際的な連帯を広げ、市民の運動の力で、各国政府にすべての軍事支援停止、即時停戦を押し付けよう。交渉による和平と占領撤退を実現しよう。
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