2025年03月21日 1863号

【ドクター/世界“最先端”を行く日本の薬剤認可改悪】

 石破内閣による徹底的に大企業の利益を優先させる政策は、医薬品政策についても露骨です。効果がなく害が多くても、開発費が少なく、高く売れ、利益が大きい薬を認可できる制度を日本が世界に先駆けて作ろうとしています。

 世界的に、新薬の認可には無作為化比較試験RCTという最も科学的な効果と害を評価する方法が不可欠です。患者を厳密に2つの群などに分けて、それぞれに新薬と対照薬(偽薬)を使い、その効果と害を判定するものです。これにより、患者は効かない有害な薬からかなり守られてきました。

 2009年抗インフルエンザ薬タミフルが入院・死亡を減らせる≠ニのRCTの嘘のデータによる「効果」を信じ、世界各国が大量に備蓄・使用しました。しかし、当時の医学界はタミフル製造販売ロシュ社にRCTの本当の元データを公開させ、タミフルに効果がないことを証明しました。

 慌てた巨大製薬業界が巻き返しを図り、特に新型コロナを機会に臨床試験の本当のデータの隠ぺい(一部は裁判で公開)、害作用隠し、販売企業関係者での論文作りなどが、当たり前のようになりました。日本では、1人分5万円ものコロナ治療薬ゾコーバが、RCTでは効果を証明できず2回承認見送りになった末、やっと22年11月に緊急認可。国が1千億円分も買い取り無料で配布しても、使う医師は少なく9割は不使用(24年10月)でした。

 このように、科学的に効果を証明できない薬で儲けたい製薬企業にはRCTが邪魔です。そこで、日本が世界でも例のないRCTなしでの新薬認可を企みます。当然、多くの識者から反対の声が上がりましたが、それを議論した制度部会を昨12月末に強引に打ち切り、「薬機法(医薬品医療機器等法)」改悪案を2月12日、閣議決定してしまいました。

 RCTでなく、「探索的試験」=仮の試験や、「リアルワールドデータ」という寄せ集めのブラックボックス化されたデータでも認可可能になります。RCTでは効果を証明できなかったゾコーバも、販売企業塩野義製薬が実施したリアルワールドデータではなんと入院を37%も減らす薬に化けました。そんな事態がまかり通ってしまうのです。

 この改悪は、医薬品認可の根幹を揺るがす大問題ですが、製薬企業や政府の強い圧力があるのかマスコミは一切無視しています。

  (筆者は小児科医)
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