2025年03月21日 1863号

【読書室/ギャンブル脳/帚木蓬生著 新潮新書 900円(税込990円)/破滅するまでやめられない恐怖】

 著者の帚木蓬生(ははきぎほうせい)は映画化された『三たびの海峡』などの作品がある小説家である。また、精神科医として35年以上、ギャンブル依存症(本書ではギャンブル症と呼ぶ)の治療に取り組んできた。本書は多くの臨床例と最新の科学的知見をもとに、「日本の国民病」になってしまったギャンブル症の恐ろしさを説き明かした一冊である。

 「ギャンブル症はアルコール依存症や覚醒剤中毒、危険ドラッグ依存よりも、重い疾患なのです」と著者は言う。外部から化学物質が入ってくることが原因なら、その侵入を断つことで脳は復元する。しかし、脳自体が強烈な刺激をともなう反復行為によって変化してしまうと元には戻らない。ギャンブル症に効く薬はないのである。

 ギャンブル症の二大特徴は嘘と借金、そして犯罪がつきものだ。ギャンブルは当人の脳を壊すだけではなく、家族を壊し、社会を壊す。このことを経験的に知っていた時の為政者たちは賭博行為を禁じてきた。

 ところが戦後の日本政府はギャンブルをむしろ奨励してきた。競馬、競輪といった公営ギャンブル。法的には遊技と見なされているパチンコ・パチスロ。そのうえカジノまで「地域経済活性化の切り札になる」と言って解禁した。

 大阪へのカジノ誘致計画をぶち上げるにあたり、当時大阪府知事だった橋下徹はこう言った。「小さい頃からギャンブルをしっかり積み重ね、全国民を勝負師にするためにも、カジノ法案を通してください」

 まさに「今だけ、金だけ、自分だけ」の発想である。こんな連中に惑わされカジノを許しては将来に禍根を残すことになる。 (O)
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