2025年04月11日 1866号
【「殺さない権利」を求めて(7)――非暴力・無防備・非武装の平和学 前田 朗(朝鮮大学校講師)】
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2016年に国連総会で採択された平和への権利宣言の草案に「各国は人民がピースゾーンをつくる権利を認める」という条文が含まれていました。草案に書き込んだのがいつだったのか、記憶が判然としません。資料を見ても特定できません。
2006〜10年にスペイン国際人権法協会がルアルカ宣言やサンティアゴ宣言をまとめましたが、そこにこの条項は含まれていません。カルロス・ビヤン・デュラン教授とダヴィド・フェルナンデス・プヤナを日本に招いて講演会を開き、東京宣言と名古屋宣言をまとめましたが、そこにも含まれていなかったと思います。2013年3月に、国連人権理事会諮問委員会が宣言草案をまとめたので、それ以前に私がピースゾーンの権利を書き加えたはずです。
2013年3月、人権理事会開催直前にジュネーヴのジョン・ノックス宗教改革センター会議室で「平和への権利実現国際キャンペーン日本委員会」が主催して「人権理事会諮問委員会平和への権利作業部会委員」と一緒に「宣言草案検討会議」を開きました。ジョン・ノックスはスコットランドの宗教改革者です。ジャン・カルヴァンの町ジュネーヴには宗教改革関連施設がいくつもあります。会場手配したのは塩川頼男(国際民主法律家協会)でした。日本委員会事務局長の笹本潤(弁護士)と私が挨拶をしました。作業部会委員に加えて、ダヴィド、軍隊のない国家研究の第一人者クリストフ・バーベイ、イタリアの平和運動家ミコル・サビアなども加わりました。
作業部会長はエジプトの法律家・人権活動家モナ・ズルフィカーでした。宣言草案起草責任者はドイツ人権研究所研究員でベルリン自由大学講師のウォルフガング・ハインツでした。日本委員会は主に、(1)日本国憲法の平和的生存権(特に長沼訴訟自衛隊違憲判決)、(2)沖縄の米軍基地問題、(3)日本における無防備地域宣言運動について情報提供しました。
その後、草案にピースゾーンをつくる権利が盛り込まれました。最初、私は文字通り「人民には無防備地域(Non-Defended Zone)をつくる権利がある」と書きました。作業部会委員から「人民の権利だとしても、国家や軍隊が設定しないと実現できない」と言われ「各国は人民が無防備地域をつくる権利を認める」に変更しました。ハインツ委員から「無防備地域と言うのは一般的ではない。世界には非武装地帯もあるから全体を対象にできないか」と言われ「ピースゾーン(Peace
Zone)」という表現を提案し「各国は人民がピースゾーンをつくる権利を認める」に落ち着きました。
念頭にあったのはオーランド諸島(フィンランド)です。1921年以来、フィンランド軍が立ち入らず、軍事施設を構築しないことになっている軍隊のない島です。2008年にオーランド諸島を訪問して調査しました。無防備地域宣言運動とオーランド諸島の事例を重ねてピースゾーンをつくる権利を考案しました。
最終的にピースゾーンの権利は削除されたので残念ですが、国連宣言起草作業に参加できたのは幸運でした。 |
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