2025年04月11日 1866号

【『ノー・アザー・ランド』監督が襲われる/入植者が暴行し、軍が拘束/民族浄化を加速するイスラエル】

 パレスチナ自治区ガザへの大規模攻撃を再開したイスラエル。ヨルダン川西岸地区でも住民への迫害行為をエスカレートさせている。そんな中、今年のアカデミー賞を受賞した映画『ノー・アザー・ランド』の共同監督が襲撃され、一時拘束される事件が起きた。

覆面の武装集団

 イスラエル人入植者の集団に襲撃され負傷したのはハムダーン・バラールさん。イスラエルによるパレスチナ占領の実態を告発した映画『ノー・アザー・ランド』の共同監督の一人で、映画本編にも登場している(イスラエル人ジャーナリストで共同監督のユヴァル・アブラハームさんと議論する場面など)。

 事件は3月24日の夜、映画の舞台となったマサーフェル・ヤッタ地域のスシャ村で起きた。現場にいたユダヤ人非暴力センターの米国人活動家たちによると、イスラエル人入植者が村人の住居の付近で羊を放牧していたことをめぐる争いが発端だという。

 村人が立ち去るよう促したところ、棍棒やナイフで武装した十数人の入植者がやってきて(突撃銃を携えた者もいた)、村の貯水タンクや防犯カメラを壊したり略奪行為に及んだ。

 バラールさんは牧羊を営む近所の住人が襲撃される場面を撮影。自宅にも被害がないか確認するため戻ったところを襲われた。妻のラミヤさんはCNNの取材に対し、夫が自宅前で暴行された時の様子をこう語っている。「入植者はメリケンサックを付けた拳で夫を殴り、ライフルの床部で頭部を殴打した。別の入植者の一団は家に投石し、窓から侵入しようとしてきた」。当時、家にはラミヤさんと3人の子どもがいた。

 ユダヤ人非暴力センターのジョシュ・キンメルマンさんは「イスラエルの軍人も現場にいたが、入植者を阻止するために何もしなかった」と証言する。それどころか、病院に搬送されるところだったバラールさんを救急車から引きずり出し、彼を含む3人を連行した。兵士に向かって投石したという理由である。

 バラールさんの行方は一時不明だったが、入植地内の警察署で拘束されていることが分かり、その後解放された。彼の話では、拘束されている間もイスラエル兵からくり返し暴行を受けたという。投石の件は3人とも否定している。

土地強奪の典型例

 今回の事件は入植者による土地強奪の典型的な手口といえる。イスラエルの入植活動を監視する市民団体ピース・ナウとケレム・ナボットがまとめた報告書は、入植者が過去3年間に奪った土地の70%は「牧羊活動を装って」奪ったものだと指摘している。

 入植者は「イスラエルの政府と軍の支援を受けて」、パレスチナ人への嫌がらせや脅迫、暴力などを行っており、2022年以降、60以上のパレスチナ人牧羊コミュニティーがこのような方法で土地を奪われたという(面積にしてヨルダン川西岸の土地の14%)。

 パレスチナ人の集落に対して破壊活動をくり広げる覆面・軍服姿の武装集団―。立場が逆ならメディアは彼ら入植者を「テロリスト」と呼んだはずである。「入植」という表現にごまかされてはならない。連中は民族浄化の尖兵なのだ。

「口封じ」が狙いか

 バラールさんは拘束されている間、イスラエル兵が交代時に自分の名前と「オスカー」という言葉を口にしているのに気付いたという。「攻撃を受けたのは自分がアカデミー賞を受賞したからだと思った」

 思い過ごしではない。映画の主人公で、共同監督のバーセル・アドラーさんも「アカデミー賞の授賞式から帰って以降、私たちは日々攻撃を受けています。これは私たちが映画を作ったことに対する復讐なのかもしれません。まるで罰のようです」と話す。

 このように、戦場や占領の実態を現地から伝えようとする人びとに対する「口封じ」の攻撃をイスラエル軍は強めている。最近も2人のジャーナリストがガザへの空爆で殺された。朝日新聞社の通信員のムハンマド・マンスールさんと中東の衛星テレビ局アルジャジーラの記者ホッサム・シャバットさんだ。

 国際NPOジャーナリスト保護委員会はイスラエル軍が2人を標的としていた可能性があると指摘。「ジャーナリストは非戦闘員であり、戦場で攻撃するのは違法だ」と非難した。ガザ当局によると、2023年10月の戦闘開始以降、ガザで犠牲になった報道関係者は208人に及ぶ。

 「国際法を遵守し、人権を守る立場にあるのならば、ジェノサイドを目にしながら私たちの映画に拍手をするよりも、この民族浄化を一刻も早く止めるべきでしょう」。アドラーさんの訴えに、具体的な行動で応えるときだ。    (M)

 
MDSホームページに戻る   週刊MDSトップに戻る
Copyright Weekly MDS