2025年04月11日 1866号

【読書室/続・日本軍兵士―帝国陸海軍の現実/吉田裕 中公新書 900円(税込990円)/人間軽視がもたらした大量無惨死】

 著者の前作である『日本軍兵士』は、日本軍の自滅と大量の無残な死がなぜ引き起こされたのか、その実態を明らかにした。本書はその続編であり、直接の戦闘死ではない膨大な戦病死、餓死を生じさせた背景を、明治以降の帝国陸海軍の歴史に即しながら具体的に明らかにするものだ。

 そのために著者は、三つの視角を重視する。第一に戦闘に使用する兵器や装備の整備と充実が「最優先」されたため、兵たん(人員や軍備品の輸送、補給)・情報・衛生と医療・給養(食糧や被服などの供与)が著しく軽視されたこと。第二に、将校の境遇が温存・優遇される一方で兵士が過酷な負担を強いられたこと。第三に、兵士の「生活」や「衣食住」に対する配慮が極め乏しかったこと。

 こうした視角を裏付ける史料がなかなか見つからない、と著者は言う。だが、限られた史料からでも、本書は、兵士とその生活から帝国軍隊の本質的問題を浮かび上がらせている。

 たとえば、徴兵されることは、食・被服・住宅等すべてを軍が用意することを前提にしているはずだ。そうでなければ絶対服従など要求できない。だが、食糧不足のため多くの兵士が住民からヤミ米を買っていた。さらに戦争末期、本土決戦を控えた国内でも、軍隊同士の略奪や飢えた兵士による盗みまで問題となる。「こんな軍隊で勝てるのだろうか」と市民が口にし、軍の「正統性」は内部から崩れていく。

 本書は、歴史を学ぶ意味を深く感じさせるとともに、人を殺す軍隊、とりわけ日本軍が構造的に兵士たち=人間を軽視し、その身体も精神も破壊していった事実を伝えている。  (I)
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