2025年04月25日 1868号
【能動的サイバー法案修正 危険性変わらず/ハイブリッド戦争への体制づくり】
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野党修正案もダメ
「能動的サイバー防御」2法案が一部修正を加え衆議院を通過、審議の場は参議院に移った。この法案は政府、マスコミが言うようなサイバー攻撃から市民生活を守るためのものではない。現代のハイブリッド戦争のための体制づくりを本格化するものなのである。
この法案は、警察や自衛隊に、国内外をとわず電子通信を常時監視させる「ネット監視」法案と被害を受ける前に「攻撃元」のサーバー等を機能停止させる権限を与える「サイバー先制攻撃」法案の2つの法案からなる。
衆議院では、ネット監視法案の方に「通信の秘密の尊重」「処理件数の国会報告」「3年後の見直し」を追記した修正案に立民、維新、国民の野党3党が賛成し、2法案とも通過した。
だが、この法案の本質は陸海空軍の攻撃力とともにサイバー空間においても「敵国」を破壊するハイブリッド戦争を仕掛けるための体制づくりにある。日常から臨戦態勢をとることを意味し、市民の通信の秘密、人権が制限されるのは当然との認識なのである。
「違憲合法」化はかる
政府によるネット監視は今に始まったことではない。これまで、隠れて行ってきた監視活動を「合法化」する理由は何か。第2次安倍政権で、国家安全保障局次長を務めた兼原信克の語った次の言葉が端的に示している。
「自衛隊サイバー部隊に『不正アクセス禁止法』がかけられており、サイバー空間で敵を監視できない仕組みになっている。これではサイバー防衛隊の手足を縛り上げているようなものである。どこの国でも軍隊は、他国軍隊や諜報機関の通信傍受、暗号解読が正当な業務である。それを国内法で禁止するなど聞いたこともない」(2022年8月26日、ネットニュースzakU)。
「通信の秘密」を侵害する行為だから、「法的根拠」が欲しいということだ。
兼原はもう一つ重要な点に言及している。「サイバー戦争に平時も有事もない。敵は毎日執拗(しつよう)に高度なマルウェア(悪意あるプログラム)を送り込む。平時に情報は筒抜けになり、有事には破壊活動を行いシステムダウンさせる。サイバー戦争は、平時から始まっている。平時に備えておかなければ、有事には対応できない」
サイバー戦争への対応は「戦時体制」が日常化するということだ。
「無害化」は先制攻撃
この法案の危険性は他にもある。サイバー攻撃に対して「防御力強化」ではなく「無害化」措置を表に出していることだ。「無害化」とは、相手国領内にあるサーバーなどに侵入し、機能停止させることだ。国際法上も主権侵害行為とされており、侵略の意図を隠していないのである。
サイバー攻撃は機器の停止にとどまらない威力がある。たとえば2010年、イランのウラン濃縮用遠心分離機約1千基が破壊された。ネット接続していなかったにもかかわらず、USBで持ち込まれたマルウェアが機器に異常回転を生じさせた。イスラエルの犯行と言われるが、証拠は残されていない。
中国や朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)、ロシアのハッカー集団やサイバー攻撃への警戒が強調される。日本は、それを上回るサイバー攻撃力を手に入れようとしている。
昨年4月、NATO(北大西洋条約機構)サイバー防衛協力センターが主催したサイバー防衛演習「ロックド・シールズ」には日本を含む約40か国が参加。9月には日米豪「ブルー・スペクトラム」、11月日米韓「フリーダム・エッジ」は合同サイバー演習として行われた。今やハイブリッド戦争を想定した軍事演習が標準になっているのだ。
サイバー先制攻撃がミサイル攻撃の応酬につながりかねない。むしろ、つながることを想定したシナリオの下で軍事演習が行われていると見なければならない。
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米政府の16の情報機関を束ねる国家情報長官の職にあったデニス・ブレアは2022年8月、自民党本部で「日本のサイバー防衛はマイナーリーグだ」と挑発的な講演を行った。その4か月後に閣議決定された国家安全保障戦略には「サイバー安全保障分野での対応能力を欧米主要国と同等以上に向上させる」とされた。
参議院では、戦争法の一つであるこの法案の危険性を徹底して暴き、必ず廃案に追い込まねばならない。
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