2025年04月25日 1868号
【哲学世間話(45)/政府が学術会議支配にこだわるのは】
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学術会議法案の「改正案」が国会に提出されている。早晩、審議入りとなる予定である。法案が国会を通過すれば、来年10月には学術会議は廃止され、「特殊法人」になる。
新法案は、政府を含む外部の介入を許容する仕組みが幾重にも盛り込まれている。たとえば、会員の選定に関しては、会員以外からなる「選定助言委員会」が設けられる。中期的な活動の評価・点検を行う「評価委員会」や、業務・財務状況を調査する「監事」が新たに設置される。この両者の委員は内閣総理大臣が任命することになっている。
会員選定に外部から介入する。学術活動の在り方に政府が口を出す。こういうことは欧米のアカデミーでは考えられないことだ。国は「お金は出すが口は出さない」が欧米のアカデミーの常識なのである。
このような動向に、すでに法案化の検討過程から、さまざまな批判と反対の声が挙げられてきた。
学術会議の歴代会長6名は、この法案によって政府からの独立性が損なわれ、「アカデミーとしての地位の失墜を招く」として繰り返し撤回を求めてきた。多くの学会やその連合体も、同様の趣旨の反対声明を公にしてきた。3月18日には日本弁護士連合会が「日本学術会議法案に反対する会長声明」を出している。
では、なぜ政府は執拗に学術会議の独立性を形骸化しようとしているのか。一言でいえば、科学研究や学術活動を政府の統制下に置きたいからである。
2020年10月、当時の菅首相が6名の会員の任命を拒否して、大問題になった事件を思い起こしてほしい。拒否の理由は、巷(ちまた)では、その6名が安保法制に批判的であったからと言われている。だが、それだけが拒否の理由ではない。
事件の背後には、学術会議が創設以来、たびたび、曲がりなりにも「軍事研究反対」の声明を公にしてきたことがある。近年、「デュアルユース」(軍事と民生両方に利用できる技術)を口実に、研究資金を交付して大学等の研究機関に軍事技術研究を本格的に導入、推進しようとしてきた政府にとって、これは目の上のたんこぶ≠ナあった。
この事例は、政府が学術会議を支配下に置きたがる理由をわかりやすく示している。「学問の自由」や「科学研究の自立性」は、けして抽象的な「理念」ではないのである。
(筆者は元大学教員) |
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