2025年10月17日 1891号

【コラム 原発のない地球へ/いま時代を変える(29)/ふざけるな司法! 被害者切り捨て、加害者免罪の極悪コンビが被災地で「大出世」】

 6・17最高裁判決で国を免罪した司法の暴走が続いている。政府は閣議決定を経て、9月7日に定年退官した小野瀬厚・仙台高裁長官の後任に永渕健一・東京高裁部総括判事をあてた。

 永渕裁判官は東京地裁判事時代の2019年に東電刑事裁判1審を担当。勝俣恒久元会長ら旧経営陣3人を無罪判決で免罪した。これだけの過酷事故を起こしても、誰も刑事責任を問われない日本の「暗黒史」にさらなるページが付け加えられた。

 永渕裁判官は、その判決だけでなく、訴訟指揮はそれ以上にひどかった。一般傍聴者を敵視し、女性傍聴者の衣服の中まで身体検査させるなど、一般社会であれば犯罪として摘発されるような人権侵害を平然と行った。福島原発告訴団の「厳重抗議」により、衣服の中の身体検査はその後中止となったが、空港並みのボディーチェックは判決日まで続いた。

 傍聴者には高齢者もいる中、法廷内への飲料水の持ち込みすら禁止。一方で東京電力が座る被告席には永渕裁判官の意向でお茶が用意された。審理中、傍聴者が少し声を上げただけで「うるさい!」と怒鳴りつける場面まであった。あまりにひどい訴訟指揮に「どっちが被告だか分からない」「私たちが裁判にかけられているみたい」だという激しい反発の声が上がったことはいうまでもない。

 その後は2023年から約1年間、静岡地裁所長に転出後、東京高裁に異動。今回の人事となった。

 一方、国家公務員住宅に居住していた原発事故避難者に対し福島県が退去を求めた「住宅追い出し裁判」で、福島地裁判事として県の主張を全面的に追認し、追い出しを招いた小川理佳裁判官は、その後、私が原告になっている「ALPS処理汚染水放出差止訴訟」も担当していたが、2025年4月、仙台高裁に異動した。今後は東電刑事裁判で経営陣を免罪した永渕長官の下で、福島県による避難者追い出しを容認した小川裁判官が「部下」として勤務することになる。2026年3月の「福島15年」を見据え、被災地「抑え込み」を狙った人事との見方もある。

 皮肉なことに、永渕裁判官が東電刑事裁判で残した判決文の中に、1つだけ「功績」と呼べるものがある。日本の原発政策上、国は完璧な安全対策を求めておらず、東電もその義務を負っていなかった以上、事故を完全に防ぐ方法は原発停止以外にない―と結論づけたことである。つまり、事故が起きれば国民の生命・財産・地域社会の存立基盤すべてを破壊する原発に完全な安全はなくそれを承知で動かすことは「博打」に等しいと言い放ったことに他ならない。日本は「博打」をいつまで続けるのか。

 司法は愚かさをあらわにしている。だが、福島事故で窮地に陥った経営を新潟・柏崎刈羽(かりわ)原発の再稼働で回復しようとする東電はそれ以上に愚かだ。たまたま運が悪くて博打に負けただけ。次は勝って返す≠ニいう度し難い発想に陥っているのである。  (水樹平和)

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