2025年10月17日 1891号
【占領経済からジェノサイド経済へ/国連アルバネーゼ報告をどう読むか/虐殺を支え儲ける巨大企業】
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国連人権理事会のフランチェスカ・アルバネーゼ特別報告者が「占領経済からジェノサイド経済へ」と題する報告書を今年6月に発表した。パレスチナに対するイスラエルの侵略行為を支えてきた巨大企業を名指しで批判し、その責任を問うものである。

今回は経済に焦点
国連特別報告者とは国連人権理事会に任命された個人の独立専門家のこと。特定の国における人権状況やテーマ別の人権状況について調査、監視、公表を行うことを任務とする。フランチェスカ・アルバネーゼはイタリア出身の法学者で、2022年5月よりパレスチナ被占領地担当の特別報告者を務めている。
2024年3月に「ジェノサイド(大量殺害)の解剖学」と題する報告書を発表。ガザに対するイスラエルの軍事攻撃を詳細に検討した結果、「ジェノサイドという犯罪が実行されたと信じるに足る合理的な証拠がある」と結論づけた。
同年10月に発表した報告書では「現在の大量虐殺は、パレスチナにおける100年にわたる入植者植民地主義の排除計画だ」と指摘。こうした「国際システムと人類の汚点」は、「終わらせ、調査し、訴追されなければならない」と訴えた。
今回の報告書はこれらに続くもので、タイトルが示すとおり「経済」に焦点を当てている。違法な占領やジェノサイド攻撃がなぜ続くのか。それは「多くの者にとって利益をもたらすからである」。つまり、イスラエルの蛮行を下支えしているのは、そこから利益を得ている世界の巨大企業だというのである。
ファナックがリストに
植民地事業とそれにともなうジェノサイドを歴史的に推進し可能にしてきたのは、営利を目的とした企業であると報告書はいう。たとえば、パレスチナの土地剥奪と強制移転に必要な武器や機械を企業はイスラエルに提供してきた。
また、企業はパレスチナの労働力と資源を搾取し、違法な入植地の建設に貢献し、そこから派生する商品やサービスを世界市場で販売することで利益を上げてきた。銀行や資産運用会社、年金基金などの金融機関は、違法な占領に資金を流入させてきた。
こうした「支配・搾取・剥奪のシステム」は2023年10月以降、「集団的暴力と甚大な破壊を遂行するための経済的・技術的・政治的インフラへと変貌した」。そして、占領経済の下で利益を得ていた企業は、手を引くどころか、「ジェノサイド経済に加担している」というのである。
具体的にみていこう。イスラエルの軍事支出は2023年から2024年にかけて65%増加し、総額465億米ドル(約6兆8千億円)に達した。この急増により、エルビット・システムズとイスラエル・エアロスペース・インダストリーズ(IAI)をはじめとするイスラエルの武器製造企業の年間利益は大きく跳ね上がった。外国の兵器メーカー、特に弾薬や火器の製造企業も、この状況から利益を得ている。
ロッキード・マーティン製のFー35戦闘機はイスラエル空軍の主力戦力であり、その空爆能力でガザ地区を壊滅状態にした。同機の開発・製造には世界各国の企業が参画している(報告書には明記されていないが、日本では三菱重工業やIHIが参画している)。
日本の企業ではファナック株式会社が、世界の軍事企業の兵器製造ライン向けに産業用ロボットを供給しているとして、ジェノサイド加担企業にリストアップされている。
ハイテクも重機も
アルファベット(グーグルの親会社)、アマゾン、マイクロソフト、IBM、パランティア・テクノロジーズなど、世界のビッグテック企業の責任も強調されている。これらの企業は、クラウドコンピューティングサービス、AI人工知能ツール、監視システムの提供により、イスラエルの戦争システムやアパルトヘイト体制を支え、巨額の利益を得てきた。
パレスチナ人を彼らの土地から「駆逐」し、その住宅や公共施設、農地、その他の重要インフラを破壊するイスラエルの軍事作戦は、世界有数のメーカー(米キャタピラー社、韓国のHD現代(ヒュンデ)重工業、スウェーデンのボルボ・グループなど)の重機に依存している。世界の人権団体による度重なる関係断絶要求にもかかわらず、キャタピラー社は2025年、イスラエルと新たに数百万ドル規模の契約を交わした。
国際的なエネルギー企業は、膨大なエネルギー消費をともなうイスラエルのジェノサイドを後押ししている。米シェブロン社はイスラエル企業との共同事業体を通じて、東地中海地域のガス田から天然ガスを採掘している。2023年には採掘料及び税金として4億5300万ドル(約667億7千億円)をイスラエル政府に支払った。
アグリビジネスはイスラエルの違法入植地事業の拡大を支える一方で、パレスチナの食料システムを消滅させ、強制移転を加速させてきた。世界中のスーパーマーケットはイスラエルの入植地製品を販売し続けている。そして、金融機関はイスラエル国債および、占領とジェノサイドに直接関与する企業に数十億ドルを投入している。
武器禁輸を今すぐ
最後に、特別報告者は次のような提言を行っている。国連加盟国に対し「イスラエルとの貿易協定や投資関係を停止し、全面的な武器禁輸措置を行うこと」など。企業に対し「パレスチナ人に対する人権侵害や犯罪行為に直接関与または加担している全ての事業を速やかに停止し、関係を解消すること」など。
イスラエルのガザ攻撃や占領支配を終わらせる行動を大きく広げていくために、アルバネーゼ報告は必読の文献である。 (M)
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