ロゴ:国際法を市民の手に 前田朗 2003年06月06日発行791号

第6回『社会権規約における人民と個人』

 1966年の国連総会は、国連憲章と世界人権宣言が目指した人権保障の国際体制を形成するために、社会権規約(経済的社会的文化的権利に関する国際規約)を採択した。社会権規約は全5部31条からなる。

 第1部は人民の自決権を規定した第1条のみである。「すべての人民は自決の権利を有する」。この権利の結果、すべての人民は政治的地位の決定、経済的社会的文化的発展を自由に追求することができる。天然の富や資源を自由に処分する権限も人民の自決権の内容である。

 人民の自決権は、帝国主義に分割された世界の人民が植民地からの解放を求めて闘った際のキーワードである。国連憲章1条2項も人民の自決の原則を掲げているし、自由権規約第1条も社会権規約第1条と同文である。つまり、今日の国際法体系において人民の自決権は基幹をなす概念とされている。人民の自決権の主体は人民であり個人ではない。人民の自決権が個人を主体とする国際人権法の冒頭に掲げられているのは、個人の人権を実現するための大前提として人民の自決権を保障しておく必要があるからだ。

 第2部は一般規定である。締約国は規約上の権利の完全な実現を漸進的に達成するための措置をとる義務があり(第2条)、規約上の権利の保障については男女同権であり(第3条)、権利を制限できる場合と方法が明示されている(第4条)。

 第3部は実体規定である。締約国は労働の権利を認め、その保障のための措置をとる。労働の権利には、すべての者が自由に選択し又は承諾する労働によって生計を立てる機会を得る権利を含む(第6条)。同一価値労働同一報酬、安全かつ健康的な作業条件など公正かつ良好な労働条件を享受する権利(第7条)。労働組合の権利や同盟罷業の権利などの労働基本権(第8条)。社会保険その他の社会保障の権利(第9条)。家族に対する保護及び援助(第10条)。食糧、衣類、住居など相当な生活水準についての権利(第11条)。身体及び精神の健康を享受する権利(第12条)。初等・中等・高等教育を含む教育の権利(第13条)。無償の初等義務教育の漸進的実現(第14条)。文化的な生活に参加する権利(第15条)。これらの諸権利の主体は「すべての者」とされている。外国人についての保障に関する留意規定(第2条3項)があるが、基本的にはすべての個人についての権利保障規定である。

 第4部は、実施措置である。締約国は規約上の権利に関する報告書を国連事務総長や専門機関に提出する(第16−18条)。報告書は国連人権委員会に送付されることがある(第19条)。締約国は一般的勧告に関する意見を提出する(第20条)。その他、権利実現のための国際的措置などが規定される(第21−25条)。

 第5部は、最終規定であり、署名・批准、効力発生、改正などを規定している(第25−31条)。

 社会権規約は、規約を批准した締約国の国際法上の義務を規定している。その必然的な反映として個人の諸権利が実現されるという構成である。人民の自決権を大前提としているが、人民と個人の位置づけは必ずしも明瞭とはいいがたい。とはいえ、国際協力により各国が社会権を漸進的に実現する仕組みを創出した意義は大きい。

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