前回紹介した社会権規約と同じ1966年に国連総会が採択した自由権規約(市民的政治的権利に関する国際規約)は、全6部53条からなる。
第1部第1条は人民の自決権規定であり、社会権規約と同じ文言である。社会権にしても自由権にしても、人民の自決権保障の上に成立することを2つの人権規約が確認している。
第2部は一般規定である。締約国による差別なき権利尊重、必要な立法措置、実効的な救済措置(第2条)、男女同等の権利(第3条)、緊急事態における権利の制限(第4条)などである。
第3部は実体規定である。生命に対する権利、死刑の大幅制限(第6条。なお、1989年の自由権規約第2選択議定書が死刑廃止条約である)、拷問や残虐な刑罰の禁止(第7条。なお、1985年に拷問等禁止条約が採択された)、奴隷及び強制労働の禁止(第8条。なお、1926年の奴隷条約、1930年の強制労働条約、1954年の強制労働禁止条約がある)、身体の自由、逮捕・抑留の手続き(第9条)、自由を奪われた者及び被告人の取り扱い(第10条)、契約義務不履行による拘禁の禁止(第11条)、移動及び居住の自由、自国に戻る権利(第12条)、外国人の追放の制限(第13条)、公正な裁判を受ける権利、無罪の推定、上訴の権利、刑事補償の権利(第14条)、遡及処罰の禁止(第15条)、人として認められる権利(第16条)、プライバシー、家族、住居への干渉・攻撃からの保護 (第17条)、思想・良心・宗教の自由(第18条)、表現の自由(第19条)、戦争宣伝及び差別唱道の禁止(第20条)、集会の権利(第21条)、結社の自由(第22条)、家族に対する保護(第23条)、子どもの権利(第24条。なお、1989年の子どもの権利条約がある)、政治に参与する権利(第25条)、法律の前の平等(第26条)、少数者の権利(第27条)である。
以上の諸規定を一見すれば、古典的な近代市民法における自由権の一覧と同様の規定が並んでいることが判明する。これらは「国家からの個人の自由」を確保することによって、個人の主体的な自己実現を保護するものであるから、逆に言えば、無用な国家介入を禁止する規定である。国家と個人の関係を自由権という観点で位置付けたものである。前回の社会権規約は、むしろ「国家による個人の権利」を積極的に要求し、労働権の保護のように国家介入の必要な場合を明示していたのと対照的といえる。
第4部は実施措置である。条約の実施のための監視機関として人権委員会(Human Rights Committee。以下では「自由権委員会」とする)を設置する(第28−39条)。国連経済社会理事会に設置されている人権委員会(Commission on Human Rights)とは異なるので、自由権委員会と略称される。人権委員会が自由権規約を起草し、採択された自由権規約に基づいて自由権委員会が設置されている。締約国には報告書提出義務があり、自由権委員会で審査を受ける(第40条)。締約国の義務不履行に対して自由権委員会が検討し、場合によっては特別調停委員会を設置する(第40、41条)。条約の主体と義務の担い手は締約国である。
第5部の雑則や第6部の最終規定には社会権規約と同様の規定が並ぶ。