2003年06月20日発行793号 books

どくしょ室 / 企業による企業のための政治

『金で買えるアメリカ民主主義』 グレッグ・パラスト著 / 貝塚泉・永峯涼訳 / 角川書店 / 本体1800円+税

 ジョージ・W・ブッシュはニセモノの米国大統領である。なぜなら本当は選挙に負けていた。大接戦の末、ブッシュが僅差で勝利したことになっているフロリダ州。そこでは数万人の有権者が不当に投票を阻まれていた。その大半は民主党の支持層であった。

 不正な投票操作の指揮をとったのはブッシュの弟でフロリダ州知事のジェフ・ブッシュとその一味である。つまりブッシュは、組織的ないかさまで大統領の地位を得たというわけだ。

 この大スキャンダルを発掘したのが、すぐれた調査報道記者として知られるグレッグ・パラストである。本書はブッシュ政権にかかわる彼のレポートを中心に構成されている。

 パラストは言う。米国大統領は選挙ではなくオークションで選ばれたのだ、と。実際、ブッシュ陣営は米国経済界から莫大な資金援助を受けており、これが勝利の決め手となった。ではなぜ、経済界はブッシュに肩入れしたのか。答えは簡単、儲かるからだ。

 たとえば、ブッシュはカリフォルニアの電力危機対策と称して、原子力発電所の建設を許可した。地震多発地帯のカルフォルニア州にとっては危険な選択だが、原発建設を請け負うハリバートン系の企業にとっては実においしい話であった。ちなみに最近までハリーバートン社の最高経営責任者を務めていたのはブッシュ政権のナンバー2・チェイニー副大統領である。

 ほかにも農薬会社の元重役が農務長官を務めるなど、ブッシュ政権の面々には多国籍独占資本のトップクラスが顔をそろえている。もはや企業は政府へのロビー活動をする必要などない。今や政府イコール企業だからである。

 こうしてブッシュ政権は、巨大企業の望むままに経済自由化政策を推進した。それは企業に巨大な利益を、人々に生活破壊(電力自由化による大停電の発生や電気代の大幅値上げなど)をもたらした。

 国内だけではない。経済自由化の脅威は全世界に及んでいる。本書の第四章は、IMF(国際通貨基金)や世界銀行の内部文書を使って、グローバリゼーションの実態を描き出した出色のレポートである。

 IMF / 世銀は開発途上国に対し、融資と引き替えに電気・水道など公共事業の民営化を求める。公共財産を手に入れた外国資本は価格吊り上げでぼろ儲け。人々は抗議に立ち上がるが、その「解決策」もIMF / 世銀はプログラム済みだ。警察、戦車、弾圧である。経済自由化と人権弾圧はグローバリゼーションのセットメニューなのだ。

 著者は、正しい情報を送り出すことができれば市民は権力者に対して行動を起こすことができる、と自らの報道姿勢を語っている。本書が暴き出した数々の事実を反グローバリズム運動の糧としたい。  (O)

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