5月8日に空白閣僚が決まり宣誓式をやり直したイラク移行政府。同日未明、米占領軍は西部アンバル州の街カイムを包囲し無差別爆撃・砲撃を開始、その後1週間にわたって住民を虐殺した。
このカイム住民虐殺は、米国と移行政府のかいらい政治家たちがイラク民衆に押し付ける「移行プロセス」と表裏一体の関係にある。マスコミが「初の民主的政権」という仮面の下にある移行政府の素顔を暴く。
カイム攻撃は戦争犯罪
5月8日、米占領軍は、バグダッドの西方約320キロにあるシリア国境沿いの街カイム(人口11万人)とその周辺の村々に対して、戦闘爆撃機・攻撃ヘリ・戦車と1千名の部隊による大規模攻撃を開始した。米軍はカイムを完全に包囲し、人道機関や報道記者をシャットアウトしたうえで1週間にわたって攻撃を続け、外国人「武装勢力」125人を殺害したと公表した。
しかし現地のイラク市民や医師たちは「外国人兵士は一人もいない」と断言している。カイムを脱出した避難民は、米軍の標的は一般市民だったと語った。インタープレスサービス(IPS)は「少なくとも100人のカイムの一般市民が殺された」(シリア国境のアブ・ケマル村住民の証言)と伝えた。カイム市内の目撃者は、アルアラビヤ・テレビに「(米軍は)軍用機と迫撃砲、戦車を使って市内を無差別に砲・爆撃し、一般市民を傷つけ、民家に爆弾を落とした」と語った。カイム総合病院の医師も「都心部は完璧に破壊され、犠牲者の中には多くの女性と子どもと年配者がいる」(アルジャジーラ・テレビ)と語った。
「外国人武装勢力掃討」は口実に過ぎず、カイム市民虐殺が初めから米占領軍の目的だった。それは、今年1月の暫定国民議会選挙を強行するために、昨年11月、占領と選挙強行に抵抗するファルージャ住民を虐殺した行為と同じように明確な政治目的の下に行われた戦争犯罪だ。
虐殺容認する移行政府
「移行プロセス」に対する抵抗の芽を事前に摘み取る。これがカイム住民虐殺の目的だ。
憲法起草委員会は5月10日に発足した。「移行プロセス」では、(1)憲法草案起草(8月)(2)国民投票による承認(10月)(3)新憲法による総選挙(12月)という段取りになっている。しかし「移行プロセス」を定めた「イラク基本法」(暫定統治評議会がでっち上げた「暫定憲法」)の条項では、国民投票で憲法草案に反対の州が3州以上あれば、憲法案は否決となる。
この条項はクルド人のかいらい勢力が実質的な新憲法への拒否権として「イラク基本法」に押し込んだものだった。そのクルド勢力を米国は移行政府に取り込んだ。
しかし、イラクの北部ニネバ州、中部サラハディン州、西部アンバル州では暫定国民議会選挙時の低投票率に示されるように「移行プロセス」に対する反対世論が強い。もしこの3州で占領反対派が国民投票で反対票を投じた場合、「移行プロセス」が破綻する。
そうした事態を招かないように、占領に抵抗する住民が特に多い西部アンバル州を標的にし、「移行プロセス」に逆らえば地域ごと破壊するという見せしめとして徹底した暴力を行使したのである。
ファルージャ西方のラマディ郊外では米軍が大テント群を建設しており、「カイムの次はラマディだ」という市民の不安が伝えられている。5月22日、イラク軍・警察7個大隊と米占領軍2500人はバグダッド西部で道路を封鎖し民家への襲撃作戦を開始した。
マスコミが「初の民主的政権」とよぶジャファリ移行政府はいったい何をしたのか。ジャファリは、米軍の戦争犯罪を非難するどころか、5月13日には非常事態宣言を延長した。ファルージャ攻撃に先立ってアラゥイ暫定政権が非常事態宣言を発動した行為とまったく同じであり、米軍の住民虐殺への抗議を押さえ込み、反占領勢力弾圧に自ら踏み出した。まさに血塗られた移行政府なのだ。
テロ続発で市民が犠牲
移行政府発足後にイラクでは、武装勢力による市民を巻き込んだ無差別テロ事件が続発している。イラク人死者は4月と5月でともに500人を超え、テロでの死者は最大規模になっている。
かいらい政党の武装民兵組織もテロ行為を繰り返している。互いが相手のテロを口実に自派の利益を実現する手段としてテロを行使してきたのである。
ジャファリは、イラク民衆が求める民兵解体や武装解除の問題に対して、これまでのかいらい政権同様にまったく手をつけない。移行政府へのクルド政党の連立協力を維持するために、クルド政党の民兵組織ペシャメルガの存続を認め、同時に身内のシーア派SCIRI(イラク・イスラム革命最高評議会)の民兵組織「バドル軍」をはじめ11民兵組織の存続を承認した。
かいらい移行政府は、テロの最大の犠牲となっている市民を守ることなどまったく念頭にない。自らの宗派的・部族的利益を優先させ、戦争犯罪ぬきには遂行できない「移行プロセス」を米占領軍と一体となって強行しようとしているのである。
IFCにイラクの未来
占領そして無差別テロという暴力支配と民主主義が両立することなどありえない。この暴力に対する姿勢こそがイラクの真の民主化と復興をめざす勢力が誰であるかを見きわめる基準となる。
ジャファリ移行政府の化けの皮は、米占領軍のカイム虐殺を容認したことではやくも剥がれ落ちた。一方、たとえ「反占領」を口実にしようと子どもや市民を殺す無差別テロなど民衆は断じて支持していない。
必要なのは米占領軍の住民虐殺・戦争犯罪を暴露・追及し、占領軍の撤退を実現すること。同時に占領支配と戦争犯罪に口実を与えるイスラム政治勢力の無差別テロを押さえ込むことだ。
いまこれを真剣に取り組んでいるのが非暴力の市民レジスタンス勢力が中心となるイラク自由会議(IFC)の運動だ。米占領軍や移行政府はイラク占領支配を続けるために宗教的・部族的対立を煽り民衆の犠牲を拡大しつづけている。この中で、政教分離、武装組織の解体、女性や社会的弱者の基本的人権の保障を掲げ、民衆の権利・平等・思想信条の自由を取り戻す闘いを進めている運動はIFCの他にはない。
この闘いへの国際的な連帯支援が、血塗られた「移行プロセス」を許さず、イラク社会の未来を築くことにつながる。