ロゴ:国際法を市民の手に 前田朗 2005年06月03日発行889号

『女性国際戦犯法廷(5)』

 女性国際戦犯法廷判決「第2部 事実の認定」は非常に詳細な事実認定を行っている。法廷に提出された証拠、サバイバーの証言、各種の文書証拠、日本国家の認知などに総合的に証拠評価を加えた認定である。

 日本の軍事侵略を概括した上で、「慰安婦」制度の発展と運営について検討し、「起源」としての南京大虐殺と関連する残虐行為と「慰安所」設置を確認し、その後の性奴隷制の制度化を追跡する。中国・台湾・朝鮮・フィリピン・マレーシア・インドネシア・東ティモール・日本について、それぞれの性奴隷化の過程を検証している。

 「日本政府と軍はさまざまな理由から『慰安所』を確立し、巨大な制度へと拡大した。本法廷に提出された証拠によると、『慰安所』の設置理由は、第一に日本軍への性病感染の防止であり、第二は、日本軍の侵攻と支配に伴い、日本軍兵士の民間人女性に対する大量で無差別の集団強かんによる反日感情に対策を講じるためであった。この他にも兵士たちを『慰安』するという、『慰安婦』制度設立の理由があったことを証拠は示している」。

 そのうえで判決は軍性奴隷制の特徴を整理している。

 「日本の軍性奴隷制が、アジア太平洋における日本の侵略戦争の通常の不可欠な要素であったと認定する。この制度の運営のための政策と手順は、日本政府の最高レベルにおいて設定された。判事団はまた、同地域全域の少女と女性たちが、拉致、徴集、強制、あるいは欺瞞的手段で連行され、強制的に軍性奴隷制の中に組み込まれたと認定する。一度奴隷化されると、この少女や女性たちは継続的に強かんされ、時として輪かんその他の性暴力や拷問を受け、また非人間的状態に置かれた」。

 判決は「慰安婦」制度の軍の管理と規制について詳細な資料に基づいて判示し、「慰安婦」の調達方法、調達業者、配属と輸送、施設の状況、身体的精神的暴力(容赦ない強かんと付随する暴力、疾病と健康の悪化、強制的な健康診断と虐待)、売春という見せかけ、孤立と家族からの分離、他の形態の強制労働を伴う性奴隷制、所有物および物資としての取り扱い、戦後の遺棄にいたる経過をていねいに記述している。

 「『慰安婦』が耐えた苦悩は、しばしば彼女が家族の強かんや殺害を目撃した後の欺瞞または誘拐によって不法に集められたことから始まり、奴隷状態に置かれて、何ヶ月も何年もの期間にわたって繰り返し強かんされあるいは拷問され、虐待され、酷使される間、日常的に続いた。女性や少女たちが自らの人生を管理することができなかったという事実は、日本人あるいはその代理人によって管理され、操作されていた『慰安所』での生活のすべてのあり様から、彼女たちが自らの身体に関し、行動に関し、自分のアイデンティティに関し、そして自分の将来に関して、もっとも基本的な決定をする能力をも否定されていたことに表れている」。

 そして、サバイバーが被る暴力とトラウマの継続的被害について、継続する健康障害と身体の苦痛、生殖能力の損傷、現在も継続する心理的被害、親密な人間関係と社会・地域生活への障害、沈黙、貧困と社会的・経済的困難に即してまとめている。

 判決はサバイバーたちの深刻な被害の叙述に際しても次のような一節を忘れていない。

 「彼女たちは互いのうちに勇気と励ましを見い出し、この勇気が自分だけでなくほかの被害者にも名乗り出る勇気を与え、相互支援のネットワークを作り出し、みずから証言することで言語に絶する体験を表現してきた。生き抜いてきた元『慰安婦』たちが、戦時性暴力を非難する世界的な運動を作る一助となったのである」。

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