民営化が引き起こした福知山線の大惨事
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「カーブ直前まで目いっぱい速度を上げて、ブレーキのタイミングを遅くすることが"うまい運転"」(5/24朝日)−オートバイレースのような運転がJR福知山線で常態となり、107名の命を奪った。
運転士にこのような無理を強いたのは、私鉄から乗客を奪うための高速化であり、秒単位の遅れを許さない運転士への懲罰だ。そして、安全対策に金をかけなかったのも事故の原因のひとつ。
なぜここまで極端に安全がないがしろにされたのか。それは、安全よりも利益を至上とするグローバル資本による、民営化の今日的な姿にほかならない。
JR西だけではない
5月27日、国土交通省は全国200社の鉄道事業者に対する調査で、「大幅に速度超過すると脱線の危険性がある」とする「危険カーブ」が2555か所にのぼり、このうち2400か所には自動的に急ブレーキをかける装置が設置されていないことを明らかにした。
危険カーブの半数はJR東日本で1259か所、JR7社全体では2099か所に及ぶ(5/27朝日)。
つまり、国土交通省でさえ「危険」と指摘するカーブへの対策がなされていないのは、JR西日本だけでなく、JR各社すべての問題なのだ。今回の大惨事がたまたまJR西日本で起きたに過ぎない。
また、読売新聞の調査によると自動列車停止装置は、JR西日本では京阪神間の一部を除くほとんどが事故を起こした福知山線と同レベルだ。同四国・九州も同様。同東日本の首都圏以外の地域、同北海道は、福知山線の水準にも達していない。「導入されていれば事故を防げた可能性が高い」とされているATS−P以上は、JR西日本・東日本のごく限られた地域のみだ。
すべてのJRが安全対策を放置しているといってよい。
中でもJR西日本には、民営化=利益優先主義の矛盾が集中的に表れた。
経営目標は「稼ぐ」
JR西日本は、儲けの出る路線が山陽新幹線と京阪神地区に限られながら、その京阪神で関西大手私鉄(近鉄・南海・京阪・阪急・阪神)との全面的な競合関係にあった。しかも、収益性の低いローカル線を多数抱える。この条件の下で、他の本州2社同様、私鉄と競争し収益率アップ、コスト削減が至上命題とされていった。
関西私鉄5社の安全対策も設備面で”JR西よりまし”といった程度だが、線路上の安全対策は、営業キロ数に応じて「負担」=コストが増す。JR西日本の営業キロ数5032キロに対して、近鉄は574キロと10分の1、阪急は147キロ(3%)、阪神は100分の1にも満たない40キロ、と私鉄は小規模であることに救われている。
また、私鉄の収益は、鉄道事業4に対して不動産・商業施設などその他の事業が6。対してJR西日本は、鉄道事業が6でその他事業が4。多くの私鉄は鉄道のコストを他部門で吸収することで成り立っている。
このような私鉄各社から乗客を奪い競争に勝つために、JR西は、”経営目標第1 稼ぐ”(同大阪支社長方針)を掲げ、まず安全対策を犠牲にしたのである。
再国有化しかない
JRは民営化にあたり、大幅な人員削減を行い、赤字の大きいローカル線を切り捨ててきた。民営化のスローガンが「民間の競争原理を働かせ、効率的な経営による赤字脱却」であり、旧国鉄安全綱領「安全は輸送業務の最大の使命である」を捨て、収益を増やすことに血道をあげてきた。
JR西日本の姿は、グローバル資本の意を受けた「民間ができることは民間で」との「小泉改革」の帰結そのものだ。
民営化=営利企業化は、国営・公営なら全く不要な支出を不可欠とする。
JR西は05年3月期の株主配当を5千円から6千円に引き上げるために20億円を使った。株式は2百万株であるから、株主配当総額は120億円だ。福知山線へのATS−Pの設置経費は9億円。「投資家」への配当と乗客の安全を天秤にかけて、JR西日本は、株主の利益を選んだ。
JRのような巨大な公共交通システムで、ローカル線を維持してすべての人びとの交通権を守り、安全性を高めることは、利益優先の民営では不可能だ。「民間でできない」ことがはっきりした以上、JRは乗客・労働者の民主的な規制の下で再国有化するしかない。