2005年06月17日発行891号

命と公共性破壊する民営化

【郵政民営化 グローバル資本による国民資産強奪】

 郵政民営化法案が国会に提出され、衆院特別委員会での審議がはじまった。小泉首相は「法案の細部にはこだわらない」と法案修正に応じる姿勢で批判をかわしつつ、6月中にも衆院本会議で可決し、国会会期を延長して8月中の法案成立を狙っている。自民党内の反対派議員に対しては、「成立しなければ解散。次の選挙で公認しない」と強権的に抑えつけ、何がなんでも成立させようと焦っている。

民営化求める経済界

 郵政民営化法案は (1)2007年4月、郵便・貯金・保険・窓口の各社に4分社化する (2)郵便局職員を非公務員化する (3)2017年4月までに貯金・保険会社の全株を売却し完全民営化する、というもの。経済界は「官から民への資金の流れの改革につながるとともに、公務員数の縮減や財政健全化に役立つ」(4/28日本経団連奥田会長)と賛同を表明している。なぜなら、郵政民営化は、国民生活のための郵便局を解体し、グローバル企業に利益をもたらす郵便局に再編することが狙いであるからだ。

 郵政民営化により、貯金・保険事業は縮小ののち将来は解体される。郵便局に預けられている350兆円の国民資産は、株・証券などの投資市場(リスクマネー)に吸い上げられる。さらに、郵便事業は、過疎地での小包の配達を廃止して、企業間物流を軸とするアジア国際物流市場に進出する。まさに、グローバル企業のための民営化であり、国民生活は一方的に切り捨てられることになる。

切り捨てられる過疎地

 郵政公社の04年度決算(05年3月期)では、郵便事業で265億円の利益を上げた。合理化の結果とはいえ、03年度の利益263億円に続いての黒字である。

 現行の郵政公社では、利益の50%を国庫に納付しなければならない仕組みになっており、それは一般の会社が納める法人税(基本税率30%)よりも高率になっている。法律により「あまねく公平に」を原則とする公社体制では、利益を独占することはできないのだ。不十分ながらもその公共性は今でも生きている。

 もし民営化され、その株が売却されれば、利益は当然、株主である企業や個人のふところに転がり込むことになる。また、過疎地の郵便局や国民の小口資産の維持のためにその利益を再配分して使うことは不可能になる。

 民営化法案では、2兆円規模の「社会・地域貢献基金」を積み立て、その運用により手紙・葉書の全国一律配達や金融サービスを維持するというが、利益が上がらず基金が枯渇すればその保障は一切ない。

 民営化は企業による公共利益の強奪にほかならない。

合理化で過労死・事故増

 全国の郵便局2万4700局のうち、35%約7千局が過疎地や離島に設置されている。法案では「過疎地への設置を義務付け、現状を維持する」としているが、採算がとれない以上、民間企業では事実上設置を維持することは困難である。地方銀行や農協ですら撤退している過疎地で、公的な保障なしに郵便局だけが維持できるはずはない。

 JR福知山線事故の根本原因は旧国鉄の分割民営化にあった。赤字ローカル線を廃止しつつ、都市部で高収益体制を追求するがみが今回の大惨事を引き起こした。「民営化企業=JR」は安全設備費を削ってまでも、株主の増配当に利益をまわした。これが民営化された企業の本当の姿だ。

 いま、郵政公社でも民営化を先取りした合理化により過労死や配達途上の交通事故が急増している。郵便配達はアルバイトに、小包配達はすべて中小配送会社に委託するなどの結果、黒字になっているに過ぎない。民営化の犠牲者は労働者であり国民・利用者である。

 JRと同じ轍(てつ)を踏む前に民営化を阻止しなければならない。

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