2005年06月24日発行892号

【フランス・オランダ国民投票 EU憲法批准に「ノー」 新自由主義を拒絶】

 欧州憲法条約は、フランス(5月29日)とオランダ(6月1日)の国民投票において両国の市民の多数派から拒否された。憲法条約は、EU(欧州連合)の全加盟国(25か国)が批准しなければ発効しない。欧州憲法条約を現状のまま発効させることはほぼ不可能になった。EUは、欧州統合の歴史において最大の正当性の危機に陥っている。

70%の投票率

 500ページに近い憲法条約の冊子の全体を理解した市民は少数であっただろう。だからといって、両国の市民は投票に際して軽率な判断を下したのでは決してない。なぜなら、両国では投票に先立って憲法条約と欧州の将来とをめぐり徹底した討論が行なわれたからだ。そのことは、フランスで約70%、オランダで63%という高い投票率にも示されている。

 投票直後のフランスでのアンケート調査によれば、反対票の最大の理由は、「憲法条約がフランスの失業を悪化させる」という点にあった。すなわち、EUと加盟国の政府とが一緒になって進めてきた、福祉国家の新自由主義的改造に対する市民の反発こそが、条約拒否の最大の理由である。

福祉国家を解体

 フランスでは1980年代末から、生活保護と就労支援とを組み合わせた「参入最低限所得(RMI)」の創設、反排除法の制定、そして週35時間制の導入によるワーク・シェアリングなど、構造的大量失業を克服して社会的排除を防ぐための野心的な政策が採られてきた。

 ところが、ラファラン保守政権は、就労への義務を強調する方向へのRMIの改悪、週35時間制の骨抜き、そして低賃金サービス労働の拡大をとおして、フランスの福祉国家を新自由主義的に改造する路線を進めた。さすがに、事業者が賃金の最も低い加盟国に移転することをうながす、EUのサービス市場自由化指令については、憲法条約の国民投票への影響を恐れたシラク大統領が指令案の見直しを強く求めたせいで、実現をみなかった。

 他方で、フランスとオランダの市民は、自国政府の政策への反発を不当にも欧州憲法条約に向けてしまったというのでもない。

 市民たちは、福祉国家の新自由主義的な改革がEUの諸機関と自国の政府とによって共同で実行されてきたことを知っている。加盟国の立法の約5割、経済立法にいたってはその約8割がEUの指令を国内法に転換するためのものである。そして、フランスとオランダのみならずEUの主要な加盟国のすべてにおいて進行している福祉国家と雇用政策の新自由主義的な改革は、EUが策定している「全般的経済政策指針」や「雇用政策指針」に沿って実施されてきたことを、EUの市民たちは見抜いている。

市民の意思反映を

 市民の日常生活を左右するような政策や制度を、エリートたちが公共の討論にさらされないまま密室で決定するという、これまでの欧州統合の非民主主義的な進め方が限界に達していることを、今回の2か国での国民投票はあらためて暴き出した。

 欧州憲法条約は、EUを単なる「市場のヨーロッパ」にとどめるのではなく民主的社会的政体へと深化させていく意図が反映されたものであった。憲法条約の第1部では、外相ポストや閣僚理事会常任議長の職を設け、加盟国の議会をもEUの政策決定過程に関与させ、第2部では、「欧州基本権憲章」を盛り込んで加盟国の市民の権利を制度化しようとしたのだ。

 しかし、他方で条約の第3部には、EUの新自由主義的な構造を規定している従来の条約体系が手つかずのまま挿入された。依然として平均失業率が10%に達するEUにとって、政府による社会的な財政支出を拘束する第3部の規定を改めることは必須の課題である。

 しかし、憲法条約をまたもや「欧州協議会」(憲法草案起草委員会)という名のエリート会議に差しもどして修正を施すというのなら、それは同じ過ちのくり返しである。憲法条約の新草案を起草する「欧州協議会」は市民が選んだ新たな代表によって構成されなければならないし、同協議会が欧州各地で市民からのヒアリングを行なうことをとおしてのみ、欧州憲法はよみがえることができる。

ホームページに戻る
Copyright Weekly MDS