国土交通省・JR西日本は福知山線脱線・転覆事故の原因糾明と責任を不問にしたまま、6月19日に運転再開しようとしている。しかし、大惨事の真の原因は、利益最優先・安全無視の民営化路線にあったことは明らかだ。イギリスでもニュージーランドでも鉄道民営化は過去のものになろうとしている。不当解雇撤回を求める原告団や被害者とともに、日本でも再国有化の声を上げていこう。
「JRに安全と人権を!株主・市民の会」は6月11日、JRの責任と未来を考える緊急ビデオ上映会を尼崎市内で開いた。
この日は、107名の尊い命を奪った脱線転覆事故から49日目。地元尼崎での緊急集会に市民の関心は高く、会場いっぱいの60人が詰めかけた。
犠牲者への黙祷ののち、ビデオ『人らしく生きよう−国労冬物語』が上映された。
1987年の国鉄分割・民営化の国労組合員へのすさまじい差別・選別攻撃の中、自分の良心を裏切らずに生きた人たちの物語だ。200人近くの自殺者を生み出した民営化。「人材活用センター」での管理者による非人道的なイジメの場面は20年前のものとは思えず、JR西日本の「日勤教育」の実態を浮き彫りにした。
国鉄時代は安全第一
「国鉄時代は安全第一」と語る佐久間忠夫さん(6月11日・尼崎)
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上映後、登場人物のひとり、鉄建公団訴訟原告の佐久間忠夫さんが訴えた。
「19年前に国鉄民営化を阻止しておれば、事故は防げた。それが残念だ」と語り始めた佐久間さんは、国鉄時代の現場のようすを報告。民営化会社との違いを鮮明にした。
「国鉄には安全綱領があって、すべてのことに安全が第一だった。お客や貨物を安全に正確に送るのが最大の使命だった。『回復運転』は絶対にしなかった。小さな事故が大きな事故につながるからだ。ブレーキ距離を縮めたり、スピードを上げると、今回のようにでかい事故を起こす。
俺はATSが設置されても、安心しない。ATSはスピードを上げると制御する仕組み。いわば、泥棒するとつかまえるよ、というもの。そもそも運転士は泥棒したらダメ。スピード上げたらダメなの」
「電車も機械、最後は人間がものをいう。昔は運転士同士が教えあっていた。電車のくせや、運転時の目の付け所など。仲間意識が強かった。今は、うっかり聞いたら『そんなこと知らないのか』と追及される。戦々恐々とした雰囲気があるから、事故が起きてしまう」
最後に、「事故の報道はいっぱい出てるが、残念なのは民営化の話がでてこないこと。みんな、民営化っていいことだと思ってしまっている。イギリスでは再国有化の動きが起こっている。ニュージーランドも国有に戻った」と、民営化を止めない限り事故はまた起こることを強調した。
人減らしで長時間労働
現場からの報告は、元国労組合員の野坂昭生さん。2年前にJR西日本を定年退職した野坂さんは、死亡した高見運転士の勤務実態を調査した。
「彼は22時間13分の拘束時間中、14時間50分もハンドルを握っていた。ものすごい長時間労働だ。なぜか、今年のデータが入手できないのだが、調べた昨年は月に4日くらいしか休んでいない。運転士の絶対数が足らず、休みを買い上げて勤務につかせるからだ。JR西日本は5万人強で出発したが、すでに2万人も人減らしがすすんでいる」と指摘した。
参加者から意見や質問が出された。
佐賀の鉄建公団訴訟原告の大串潤二さんは現在は兵庫県在住だ。「現場に行き、高見運転士がぶつかる瞬間にどんな思いだったかを想像すると、心が痛み、言葉がでない。大きな事故のときは大騒ぎする。でも、毎日の小さな事故には目がいかない。小さなことを見過ごすことが大きな事故になる。ほとぼりがすぎるのを待っているJR西日本を絶えずチェックしていかなければならない」
6月23日は株主総会
「同じ電車に乗り合わせていた2人の運転士はどうすればよかったのですか」と、市民が問い掛けた。
佐久間さんがすぐに答えた。「国鉄時代なら、指令のあるなしにかかわらず、迷わず救助に入った。脱線事故が起これば、長いすを外して、線路にかけてお客を降ろす。事故対策もしっかりしていた。『出社せよ』という区長も問題だが、区長に物が言えない職員も問題。おかしいことをおかしいと言えない企業風土を変えていかなくては」
集会の最後に、JR株主・市民の会の桐生隆文代表は、「6月23日に注目のJR西日本の株主総会が開かれる。安全問題に集中して質問を準備している。利益至上主義の経営者の責任追及のために株主代表訴訟にも今後取り組んでいく。今回の事故を二度と繰り返してはならないとの決意を新たに、公共交通の再生に向けた取り組みをともに始めましょう」と訴えた。