3.イラク労働者共産党の反論
これに対し市民レジスタンスの中核をなすイラク労働者共産党はいくつもの反論を出している。ただしカネイシャ・ミルズについては出たばかりの論文なのでまだイラク労働者共産党およびイラク市民レジスタンスサイドからの反論はない。
そのうち二人の批判を紹介する。
マフムード・ケタブチは「IS0(国際社会主義協会)は労働者階級の社会主義の側に立つのか、民族主義イスラム主義の側に立つのか」という論文でエリック・ルーダーの「抵抗する権利」「アメリカは直ちにイラクから出て行け」を批判している。[注4]
エリック・ルーダーは「抵抗する権利」においてイスラム主義者と民族主義者の武装レジスタンスを正当なものとみなし、したがって自由を支持する人はすべてイラクにおいてイスラム主義者と民族主義者の運動を支持すべきだと指令している。
この2260語の論文の中に、自由と平等のためのイラク労働者階級の闘いも、あるいは信じがたいぐらい厳しく残酷な条件の下でアメリカの占領と資本家によるイラク労働者搾取に反対して大衆を組織するために闘っているイラク労働者のすさまじい努力についても1語もない。アメリカ政府に反対し、女性に対する暴力、女性嫌悪主義に反対し、女性を人間以下にする野蛮な法律や規制に反対する女性解放運動について1語もない。彼らは(ISO)なぜイラク労働者とその闘いや女性解放運動を無視しているのか。イラク労働者は組合や評議会を通じて繰り返しアメリカのイラク占領に反対してきたし、アメリカ軍のイラクからの即時撤退を要求してきた。この反対はISOにとっては重要でないのか。労働者の大衆的抵抗、打ち続くストライキ、職場闘争、全国的集会といった運動はISOにとってすこしでも価値があるのか。これらの闘いはアメリカ政府、ハリバートン、ベクテルなどをターゲットとしているのではないのか。
ISOはイラクの労働者かイラクのブルジョワジーかどちらの立場に立つのか。自らを「国際社会主義」と呼ぶ組織が労働者を無視し、よりよい生活を求める労働者の日々の努力も無視し、イスラム主義者と民族主義者の代弁者になっているのはきわめて恥ずべきことである。
次にエリック・ルーダーの「アメリカはただちにイラクから出て行け」("U.S. out of Iraq now")をとりあげる。この論文の中でエリック・ルーダーは「アメリカ政府の即時撤退以外のことを要求することはーそれはよく民主主義とか自由とか正義とかの高尚な言葉で覆い隠されているー戦争目的の追求を継続することを政治的に正当化することになる」と主張している。
この意見によれば、イラク労働者が組織し抵抗しストライキする権利を求めて闘っても、また仕事や失業給付やより高い賃金や手当てを求めても、また職場で力を持つために動き、職場での指揮権を要求しても、アメリカの占領を正当化することになるのである。イラクの反動的勢力もいう。「今は階級や階級闘争や女性の権利・解放を語るときではない。なぜならわれわれは団結してわれわれの共通の敵、アメリカ政府と闘わなければならないからである」
エリック・ルーダーはまた占領反対は「国産」であり外国人はたいした数でないことを示している。イラクの労働者、共産主義者は外国人について何ら問題にしていないし関心もない。スペイン内戦のときの国際的支援がそうであるように国際的連帯を歓迎する。
エリック・ルーダーは「イラクレジスタンスがアメリカをイラクから追い出すならば、ブッシュおよびアメリカ帝国主義の予定は大きく遅れることになるだろう。これはわれわれにとって巨大な勝利であるだろう」という。しかしアメリカを追い出したイラクブルジョワジーはイラク大衆にとって耐え難い地獄にイラクを変えるであろう。勝利したブルジョワジーの手でイラクの共産主義者と自由を愛する人々が大量に殺されることが、アメリカの労働者や、共産主義者や、進歩勢力の利益にどうすればなるというのだろうか。中東におけるアメリカの計画を打ち負かすことは疑いもなく重要なことである。しかし共産主義者、社会主義者にとって、みずからの言葉で目標に向けて努力すべきである。われわれはアメリカとイラクの反動勢力との間で選択する必要はない。アメリカに反対することが直ちに進歩的立場だということではない。重要なことはこの反対が代表している未来の中身であり、追及している目的である。イラクの正義と自由に関心を持つ人なら誰でもイラク人が抵抗し、自由で平等な社会とよりよい世界を作る権利を支援すべきである。だれもがよりよい未来の可能性や自らの未来を創り自らの生活と運命を決めようという人々の能力を否定できない。イラク労働者と平等を求める人々によるアメリカとイラクのブルジョワジーの決定的敗北はアメリカおよび世界中の革命運動と労働者階級の利益となり勇気付けることになるだろうとケタブチは結論付ける。
さらに「民族主義左翼と帝国主義へのブルジョワジーの批判を暴露する」では以下の批判を展開する。[注5]
欧米左翼の考えでは世界には二つの型の資本主義があることになる。欧米の資本主義(帝国主義)と第3世界の資本主義である。このような認識の元では帝国主義は発展途上国においては「外国」のあるいは「外部」の権力とみなされる。この理解によれば帝国主義は「第3世界」の経済を支配する多国籍企業を代表するものであり、発展途上国における「民族資本」の成長を妨げるものだということになる。そうすると帝国主義は世界資本主義システムから利益を得るもので、発展途上国の資本は世界資本主義から何も得るものがない犠牲者だということになる。「第1世界」の悪い資本主義と「第3世界」の善良で無害な資本主義というのは、労働者を支配し、自由と社会主義の闘争を抑圧するためのブルジョワ民族主義者のばかげた話である。「西欧帝国主義」と「第三世界資本主義」は剰余労働の搾取という点において別々のものではなくひとつの、同じものなのである。「発展途上国」は生き延びるために国際資本に依存しているし、国際資本もまた「発展途上国」に依存している。彼らの相互関係は、基本的に労働者の搾取とその利益を誰が多く取るかの争いである。「第3世界」のブルジョワジーは国際経済システムの不公平さについてぐちをこぼすが、しかしその同じシステムから非常に多くの利益を得ているのである。
「第3世界」の資本家たちは欧米の権力との争いを「自己決定のための高貴な闘い」とか「民族独立と主権」「経済発展」と呼ぶが、実際には、労働者の搾取の分け前を巡って争っているのである。ブルジョワジーの民族独立と自己決定は労働者階級の同胞を搾取する権利に過ぎない。左翼民族主義者たちの帝国主義理解が見落としている点は、帝国主義の定義は基本的には資本と労働の間の資本主義的関係と定義されることである。
シャマール・アリは「イラクレジスタンスと労働者共産主義」の中で世界の左翼に広がっている幻想を批判する。[注6]
まず第一に、「外国の占領はレジスタンスを正当化する。左翼はレジスタンスの指導者の性質に関わりなくレジスタンスを支持すべきである」という幻想である。この幻想の背景には民族の「尊厳」という概念がある。しかし外国軍が犯すことのできるような尊厳が(ブルジョワジーに支配されている)われわれ労働者に残されているのか。マルクスが150年前に言ったように祖国はわれわれのものでは決してない。自国の狼がわれわれの肉を食うかもしれないが骨まではかみ砕かないから外国の狼よりましだというようなばかげた話である。
欧米の左翼はイラクの共産主義者がこの「レジスタンス」勢力に反対の立場をとることを非難する。イラク労働者はアメリカ軍と闘い、暫定占領当局の計画や陰謀に対してラディカルな立場を取っている。しかし、イラク労働者は反動勢力の陣営には参加しない。占領軍に対する労働者の闘いは、反動勢力と反動勢力の中世の悪夢のような社会のビジョンに対する闘いと不可分である。
つぎにイスラムテロリズムがアメリカによって作られ、育てられたのであるからアメリカを打ち負かした際にイスラムテロリズムも終焉するであろうという幻想である。これはアルサドルやその他のイラクのイスラム政治勢力がマンハッタンからバリ島まで、マドリッドからフィリピンまでのテロにかかわりを持つ国際的潮流の一部であることを忘れたものである。
伝統的左翼はテロリスト同士の争いにおいて一方のテロリストを支持、支援するという世界でもまれに見るばかげたことをしている。
アメリカがイラクにおいてイスラム勢力に敗北することは世界的規模でのイスラム政治勢力の反動とファシズムの勝利となるだろう。パレスチナにおけるイスラムのテロはイスラエルの右翼を強める結果をもたらすだけであった。同様にこの紛争におけるアメリカ、イギリス同盟軍の敗北はそれが政治的イスラムの手によるものであるならば西洋において反動的ファシズム右翼の外交、国内政策を強めるだけであるだろう。
われわれイラク人はローカルな勢力ではなく国際的勢力と対峙している。国際的な左翼の支援なしでイラクにおいて左翼が現実的な勢力として登場することは(不可能ではないとしても)困難なことである。残念ながら現状では伝統的左翼の多くがわれわれに対してアルサドルやビンラディンたちと協力し、その同盟に参加するよう求めている。
革命の戦術としての武装闘争に関する限り、労働者共産党は武装闘争をありうる革命戦術とみなしているが、現在のイデオロギー状況、階級構成と労働者および解放勢力の大衆運動の組織的弱さの中で、この手段をやむなくとることは政教分離の大衆運動の発展を妨げ、現在進められている暗黒のシナリオをさらにすすめてしまうという大きな政治的誤りとなることを確信している。
労働者と解放勢力の強力な党と大衆運動が米軍撤退後の政治的空隙を埋めない限り武装した民族主義者と宗教的軍事組織がその場所につくことになる。米軍および同盟軍の撤退はイラクをもうひとつのソマリアになることを意味するであろう。そうさせないための唯一の戦術は、労働者、共産主義者の党、大衆運動、武装能力を直ちに強化することによってイニシアチブをとり、イラクのどこでも機会があれば統治する勢力として登場することを可能とすることである。
国際左翼が世界の現状の中で力のある勢力として現れる唯一の道は、アルサドルやザラウィやビンラディンの側に立ちかれらの「レジスタンス」を賞賛するのではなく、イラクの労働者、共産主義者とイラク労働者共産党を政治的物質的に支援することである。
イラク労働者共産党の批判はイラクブルジョワジ−の立場を代表する政治的イスラムと組んでレジスタンスをすることはできない、アメリカとイスラムの二つのテロと闘う第3の道こそ必要だということである。