理論・学習誌『民主主義的社会主義第56号』

【イラク市民レジスタンス連帯の意義】

佐藤和義

4.論点

 欧米左翼とイラク市民レジスタンス勢力との論争は大きくいって2点にまとめられる。

 まず第一にイスラム武装勢力の評価についてであり、第二に自己決定と国際連帯のあり方についてである。

(1)イスラム武装勢力の評価

 アメリカを中軸とする占領軍への武装闘争をどう見るのか。占領軍に対する武装抵抗闘争はたしかに占領軍にダメージを与えている。占領に被占領国人民が抵抗することは国際法上認められた権利である。イラク市民レジスタンスも「愛するものの死や、占領軍の手にかかって受けた屈辱に対する報復として占領軍を攻撃する人々は存在する」として市民の武装抵抗は認めている。[注7] しかしそのことをもってイスラム武装勢力の路線を正当化することはできない。イスラム武装勢力の取っている路線は市民のやむにやまれぬ抵抗ではなく、組織立ったものである。イスラム武装勢力の路線の誤りの第一は、アメリカ占領軍と対決する原理においてまず間違っていることである。イスラム武装勢力がとる戦術―誘拐、監禁、拉致、首切り、暗殺をアメリカ帝国主義に反対するためとして正当化することはできない。自爆攻撃はアメリカ兵以上にイラク市民を殺戮している。女性に対する差別、抑圧を正当化することはできない。イスラム武装勢力はイラク人の人命、人権を無視し米軍と対抗しようとしているのである。グローバル資本主義は利益のために人を抑圧し、殺戮するシステムである。それに対抗する側が同じ原理では闘えない。世界の反戦勢力はグローバル資本主義の戦争システムに対し、民主主義を原理として対抗しなければならない。ソ連邦を中心とする社会主義世界体制が崩壊した現在アメリカを軸とするグローバル資本主義の軍事力に対し武力で勝利することはできない。世界の反戦勢力がアメリカの軍事力行使をやめさせ、軍事力を解体していくことによってグローバル資本主義に民衆が勝利していくのである。グローバル資本主義を追い込んでいく力は全世界の民衆が連帯し、政治的力で軍事力行使をやめさせていくことである。そのときにイスラム政治勢力の路線は障害となる。アメリカ帝国主義ではなくイラク民衆を殺し、女性を差別抑圧してどうしてグローバル資本主義に勝てるだろうか。一握りの人間が支配するグローバル資本主義に勝利する道は全世界民衆の闘う連帯でしかない。抑圧に対抗する原理は民主主義であり自由平等である。またイスラム武装勢力の過ちの第二は、米軍を追放した後のイラク社会の展望が間違っているということである。彼らはイラクに民主主義を実現するのではなくイスラム独裁社会を作り出そうとしている。イラク民衆はアメリカ占領軍に代わる独裁者をのぞんではいない。イスラム武装勢力を批判しないでいるならばイラク人の権利、女性の人権が保障されない暗黒の社会になってしまうのである。さらに第三にいうまでもないことであるが、イスラム武装勢力による自爆攻撃などによるイラク民衆の被害が大きすぎるということである。アメリカの占領による虐殺に戦うといいながらアメリカ兵よりイラク民衆を多く殺すような戦術を認めるわけにはいかない。以上、占領軍撤退のためにすべてのイラク民衆、世界の反戦運動を結集させるためにも、将来のイラク社会の展望においても、現実のイラク市民の被害においてもイラクのイスラム武装勢力の路線は支持・連帯できないものなのである。

 ではこれまでの世界の民衆の反帝国主義の運動の歴史における武装闘争をどう見るのか。

 ベトナム戦争は明らかに武装闘争と世界の反戦運動が結合して勝利した闘いである。このとき解放戦線とベトナム民主共和国軍は民衆に銃口をむけてはおらず、自爆攻撃も行っていない。最終的に正規軍戦で勝利したのである。もちろん誘拐などしていないし、ベトナム女性は戦闘的に戦いを担った。女性も対等な同志として解放戦争に参加していたのである。したがってベトナム戦争は世界の反戦運動から全面的に支持され勝利したのである。

 ベトナム戦争は宗派や民族とは無関係にアメリカ帝国主義に反対するすべての勢力を結集しえたがゆえに勝利した。闘いの原理として民主主義が貫かれていた。

 南アフリカの反アパルトヘイト闘争も民衆が勝利した闘いである。アパルトヘイト政権に対しANCが勝利したが、それは大衆的戦闘的抵抗闘争の結果であった。ゼネスト、選挙ボイコットなどでアパルトヘイト政権を大きく追い詰め、ANCの軍事部門がアパルトヘイト軍を打ち破る中で勝利を勝ち取った。ここでも誘拐やテロは行われず、女性の役割は大きかった。ANCは原理として差別反対なのであり、まさに民主主義を掲げて勝利したのである。ANCに納得しない人はアパルトヘイト政権を支持する一握りの人だけであった。

 パレスチナはどうか。パレスチナにおけるイスラエル軍の蛮行とそれを支持するアメリカ政府が現在のパレスチナの事態を生み出したことはいうまでもない。しかし一部のイスラム武装勢力による自爆攻撃がシャロン反動政権を強めていることは間違いない。これ以上の被害を出さず、勝利していくための荷は和平を推進するしかない時点に来ている。和平を押し付ければ長期的に必ずパレスチナ人民は勝利する。

 イラクにおける武装レジスタンスはベトナムや南アのような闘いをしていない。かれらがとる自爆攻撃は武装闘争の敗北形態である。兵士が帰還できないことをわかっていて取る戦術は勝利を目指す軍事戦術ではない。敵との武力格差がありすぎて攻撃できないからやむなく取る戦術だが、それも目標をアメリカ占領軍そのものではなくより容易に攻撃できるイラク軍やイラク警察が目標となっている。イラク軍、イラク警察は失業の中でやむなく入った民衆が多いにもかかわらず、殺してしまう。このような戦術を平然と取るイスラム武装勢力がイラク民衆を解放するものでないことは明白である。アメリカの残虐さのもとでイスラム武装勢力への批判を控える傾向があるが、イラク市民レジスタンスがそうであるようにイラクで暮らしイラクで闘う人々にとってイスラム武装勢力のテロは許しがたいものである。

 にもかかわらずカネイシャ・ミルズのように「武装レジスタンスはそれにあらゆる苦痛が伴ったとしても、自らの国を新植民地支配されることへの不可避の返答である」といえるだろうか。あるいはエリック・ルーダーのように「アメリカ政府の即時撤退以外のことを要求することは戦争目的の追求を継続することを政治的に正当化すること」であろうか。

 まさに全イラク人を結集させ占領軍を即時撤退させるのは民族、宗教、性にかかわりなく自由平等に闘うことである。

 カネイシャ・ミルズが所属するANSWERもストップ戦争連合も武装レジスタンス支持とはいっていない。世界の民衆の間にはアメリカのイラク戦争開始、占領は不当だとする声は多数である。しかしイスラム武装勢力のテロ行為にイラクの将来の展望が世界の民衆には見えてこない。そのことが反戦運動をさらに大きくつよくし、ブッシュ・ブレアを追放することの妨げとなっている。明確にイスラム武装勢力のテロ行為を批判すべきときなのである。イスラム武装勢力のテロについて沈黙を守ることは世界の反戦運動を発展させるものではなく後退させるものなのである。

 民衆、女性に銃口を向けるのではなく、イラク民衆すべてがゼネラルストライキや大集会デモで占領撤退を訴えることが占領軍撤退の最短の道であり、被害の少ない道である。

(2)自己決定と国際連帯

 エリック・ルーダーは国際反戦運動はイラクの運動に介入してはならず、イラク人が自らの方向を自己決定すべきだと主張する。この自己決定は二つの文脈で使われている。一つはイスラム武装勢力の支配の結果を容認するということである。「反戦運動のわれわれもなんらの要求をすべきではない。イラクを統治する人々の政治にわれわれが同意できないこともあるだろう。しかしそれが自己決定の意味するところであり、イラク人が決定するということなのである」と主張するのは、きわめて無責任である。米軍撤退させたあとの政権がイスラム専制政権で労働者や女性を抑圧しても知らないというのである。もうひとつは全交の場でもカネイシャが用いたように特定のイラクの勢力を支持すべきではないという文脈で使われる。しかしカネイシャが論文で批判しているように市民レジスタンスはアメリカ帝国主義の手先だという批判が根底にあるのだから、自己決定はイラク市民レジスタンスへの支援を拒否する理屈に過ぎないことになる。

 しかしそもそも自己決定そのものが間違って用いられていると思われる。自己決定とは帝国主義の支配に対し要求し獲得すべき権利であって、運動内部に持ち込むものではない。国際連帯のもとイラクの団体が支援を受けてもイラクの方向を決めるのはイラク人であって自己決定になんら矛盾しない。さらに現在のグローバル資本主義はまさに国境を越えて支配を強化しているのであって、グローバル資本主義と闘う勢力のスローガンはまさに国際連帯でなければならない。グローバル資本主義の最も好戦的勢力のアメリカと対決しているイラク人民を支援することこそ必要なのであり、抽象的一般的に撤退を言っていればいいというものではない。社会主義労働者党や社会主義解放党がイラク武装勢力を支持しているのなら、その闘いを傍観するのではなく当然支持を表明し義勇軍を派遣するのが論理的帰結だろう。かつて世界の共産主義者、社会主義者はスペイン人民戦線に参加したことを想起すればいい。エリック・ルーダーはイスラム武装勢力によるアメリカ軍撤退がかちとられるなら「われわれにとっての巨大な勝利であるだろう」といっているのであるから、巨大な勝利のために実践的に何をすればいいか明らかにすべきではないか。もちろんわれわれはブッシュ、ブレア政権の弾圧法規の関係を考慮し、彼らが奴隷の言葉で語っている可能性を想像できないほど日本の運動を平穏に進めているわけではない。しかしマルクスは「共産主義者は、自分の見解や意図を隠すことを恥とする」といっている。[注8] イラクにおける勝利が重要なのであれば勝つためにありとあらゆる手段をとるのが当然であろう。

 自己決定の論理はグローバル資本主義が国境を越えて介入支配しているときに、グローバル資本主義に対していう言葉であってグローバル資本主義にたいし闘っている人々に言う言葉ではない。グローバル資本主義に対して国際連帯を強化することでしか勝てないのである。

(3)その他

 カネイシャ・ミルズの批判は闘う者同志の方針をめぐる論争の態度ではない。われわれはイラク市民レジスタンスを主張する勢力がなぜ帝国主義の手先となるのか理解できない。占領軍に労働者が要求を出すことがなぜいけないのか。イラク労働者評議会労働組合協議会(FWCUI)は現在も電力会社やセブンアップの工場でストライキを組織し闘っている。[注9] そのことがアメリカ帝国主義の占領支配の利益にどうつながるというのか。また女性が身の安全を確保するために闘う事のどこがいけないのか。イスラム主義グループがヒジャブ(イスラム教のベール)をかぶらないでいる女性を脅迫することにイラク女性自由協会(OWFI)が抗議することは当然の権利であろう。レジスタンスの名目で女性を誘拐することを批判するのも当然のことであろう。[注9] 選挙をボイコットし闘う市民レジスタンスとかいらい政権に参加している党とを一緒にしてアメリカ帝国主義の支配に貢献しているというのはあまりにも乱暴な議論というべきであろう。[注10] 信じられないラフで失礼な議論である。世界の反戦運動を発展させるための生産的論議を望みたい。

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